「全く、あの爺のせいでエルマとのランチがパァだ」
会議後、執務室へ戻った俺はそう悪態をついた。無駄な時間のせいでランチを作る時間もなく、昼食時間はとうに過ぎてしまっていた。
今朝エルマと国王に挨拶した。その後控えていたこの会議を巻いて、二人でランチをしようと思ったがその予定が崩れてしまったのだ。
「まぁ、いいじゃないですか。今日は少し進展したんですから」
コーランの言葉に俺は自分の手を見つめた。
「手を……、握ってしまった……」
俺は自分の右手をじっと見つめる。まだそのぬくもりは手に残っていた。自然と頬が緩む。
「ユアン様……。気持ち悪いです」
コーランが笑顔のままそう指摘した。
「気持ち悪いとか言うな!」
自分でもわかっている。たかが手を繋いだだけでこんなにも感動して胸を躍らせているなんて。まるで10代の子供のようだ。
でも……!
「仕方がないだろう、やっと手に入れたんだ」
「それはわかりますけどね」
小さな手だった。柔らかいけれど、ただのお嬢様のように白魚の絹のような手とは違う。使用人として日々働いてきた働き者の手だ。
またそれが好感を持てた。エルマが頑張ってきた証拠だ。
「……しばらく手を洗わないとか言わないでくださいよ」
白けた顔のコーランに小さく舌打ちを返した。そこまで変態ではない。……多分。
しかし……とコーランが呟いた。
「エルマ様のご様子が少しばかりおかしいですね」
「おかしいとは?」
「ふとした時に考えるような表情をされて青ざめます。もしかしたら、ご自身がジュアナではないことに悩んでおられるのでは?」
「だろうな」
それはずっと考えていた。真面目な性格のエルマなら当然悩むだろう。
俺は机の上の報告書を見つめた。
密偵からの報告書によれば、言わずもがなだが彼女がエルマであることは確実。
本物のジュアナは王宮からの迎えの朝に男と失踪し、ラニマール侯爵がエルマをジュアナに仕立て上げたらしい。エルマは幼いころからジュアナに使用人として虐げられ、服を交換しては周囲を騙す遊びに付き合わされていたようで、その日の朝もジュアナの命によりジュアナの格好をしていたとのことだ。
まぁ、全て予想通りだ。
俺は報告書を側にあった蝋燭の火で燃やす。これで証拠は何もない。
きっとエルマは脅されるなりしてジュアナに成りすましたのだろう。そのことに罪悪感と罪の意識を持っている。
「ジュアナとして王族に嫁げてシンデレラストーリーみたい! ラッキー!」と思えるような図太い精神は持ち合わせていないだろう。
かといって、俺から「ジュアナではないだろう」と言うことはできない。そうすれば俺は彼女がジュアナではないことを認めたことになる。もしそれが外部に漏れたら彼女の命は俺でも保証が出来ない。
王族を騙した罪は重いのだ。
「さて、どうするかな……」
俺は天を仰いだ。
エルマと結婚できるのは大いにありがたい、願ってもないことだ。
しかし、彼女がずっと罪の意識を持ち続けるのは見ていられない。かといって、俺がエルマと認めると彼女はジュアナとしては生きていけないし……。
「こうなったら……」
二人の秘密にするか。彼女がエルマということは俺とエルマの二人だけの秘密。(まぁ、コーランもいるけど)
二人の秘密という響きは甘美に聞こえる。
「それも悪くないな」
自然と笑みが浮かぶ。そんな俺を見て、コーランは深い深いため息をついた。
さっそく、エルマと話をしよう。いきなり秘密を知っていると言うのは驚かれるし良くないだろうな……。
まずはもっと距離を縮めて親密になってからだ。俺はこれからのことを考えててほくそ笑んだ。
会議後、執務室へ戻った俺はそう悪態をついた。無駄な時間のせいでランチを作る時間もなく、昼食時間はとうに過ぎてしまっていた。
今朝エルマと国王に挨拶した。その後控えていたこの会議を巻いて、二人でランチをしようと思ったがその予定が崩れてしまったのだ。
「まぁ、いいじゃないですか。今日は少し進展したんですから」
コーランの言葉に俺は自分の手を見つめた。
「手を……、握ってしまった……」
俺は自分の右手をじっと見つめる。まだそのぬくもりは手に残っていた。自然と頬が緩む。
「ユアン様……。気持ち悪いです」
コーランが笑顔のままそう指摘した。
「気持ち悪いとか言うな!」
自分でもわかっている。たかが手を繋いだだけでこんなにも感動して胸を躍らせているなんて。まるで10代の子供のようだ。
でも……!
「仕方がないだろう、やっと手に入れたんだ」
「それはわかりますけどね」
小さな手だった。柔らかいけれど、ただのお嬢様のように白魚の絹のような手とは違う。使用人として日々働いてきた働き者の手だ。
またそれが好感を持てた。エルマが頑張ってきた証拠だ。
「……しばらく手を洗わないとか言わないでくださいよ」
白けた顔のコーランに小さく舌打ちを返した。そこまで変態ではない。……多分。
しかし……とコーランが呟いた。
「エルマ様のご様子が少しばかりおかしいですね」
「おかしいとは?」
「ふとした時に考えるような表情をされて青ざめます。もしかしたら、ご自身がジュアナではないことに悩んでおられるのでは?」
「だろうな」
それはずっと考えていた。真面目な性格のエルマなら当然悩むだろう。
俺は机の上の報告書を見つめた。
密偵からの報告書によれば、言わずもがなだが彼女がエルマであることは確実。
本物のジュアナは王宮からの迎えの朝に男と失踪し、ラニマール侯爵がエルマをジュアナに仕立て上げたらしい。エルマは幼いころからジュアナに使用人として虐げられ、服を交換しては周囲を騙す遊びに付き合わされていたようで、その日の朝もジュアナの命によりジュアナの格好をしていたとのことだ。
まぁ、全て予想通りだ。
俺は報告書を側にあった蝋燭の火で燃やす。これで証拠は何もない。
きっとエルマは脅されるなりしてジュアナに成りすましたのだろう。そのことに罪悪感と罪の意識を持っている。
「ジュアナとして王族に嫁げてシンデレラストーリーみたい! ラッキー!」と思えるような図太い精神は持ち合わせていないだろう。
かといって、俺から「ジュアナではないだろう」と言うことはできない。そうすれば俺は彼女がジュアナではないことを認めたことになる。もしそれが外部に漏れたら彼女の命は俺でも保証が出来ない。
王族を騙した罪は重いのだ。
「さて、どうするかな……」
俺は天を仰いだ。
エルマと結婚できるのは大いにありがたい、願ってもないことだ。
しかし、彼女がずっと罪の意識を持ち続けるのは見ていられない。かといって、俺がエルマと認めると彼女はジュアナとしては生きていけないし……。
「こうなったら……」
二人の秘密にするか。彼女がエルマということは俺とエルマの二人だけの秘密。(まぁ、コーランもいるけど)
二人の秘密という響きは甘美に聞こえる。
「それも悪くないな」
自然と笑みが浮かぶ。そんな俺を見て、コーランは深い深いため息をついた。
さっそく、エルマと話をしよう。いきなり秘密を知っていると言うのは驚かれるし良くないだろうな……。
まずはもっと距離を縮めて親密になってからだ。俺はこれからのことを考えててほくそ笑んだ。



