お嬢様の代わりに冷徹王子に嫁ぎます

カァァァと一気に顔に血が昇るのを感じる。どんな顔をしていいかわからず、目を逸らして俯いてしまった。私の反応に、ユアン王子もどこか気まずそうだ。

「あ、いや、そのっ……私は……」

何て言ったらいいかわからない。
だって、普通に子供の話をしているけれどそれってつまり、夫婦として関係を持つということで……。それはつまり……ユアン王子の夜伽を……。

頭の中でみだらな想像をしそうになって、慌ててそれを打ち消す。
トークハットのレースで顔は隠れているが、たぶん真っ赤だろう。ユアン王子もそっぽを向いてコホンと咳払いをした。

「まぁ、それは結婚後の話だ。とりあえず今は結婚準備を頑張ってくれればいいから」

そう言うと、踵を返しスタスタと行ってしまった。
私は頬を両手で押さえながら固まったまま動けない。心臓がドキドキと煩くてこんな感情初めてだった。

すると、後ろから忍び笑いが聞こえる。コーラン様が我慢できないといった感じで、横を向いて肩を震わせて笑っていたのだ。

笑うなんて……。ついジトっと見つめてしまった。

「あぁ、すみません。あまりにも初々しいと言うかなんというか……」
「もう、コーラン様!」

恥ずかしくてさらに顔が熱くなる。大人のコーラン様からしたら初々しく見えるのだろう。

「いいじゃないですか。夫婦になるなら当然のこと。将来設計を話し合っておくのは大切なことですよ」
「しょ、将来設計って……! 別にそんなんじゃ……」
「これからの未来はお二人が紡いでいくんです。お二人が良いようにすればいいんですよ」

二人で……。
そう言われて、胸がズキンと痛む。二人というのはユアンとジュアナという意味だ。私、エルマではない。このままジュアナとして偽ったまま、本当に結婚していいのだろうか? 貴族でも何でもない私が、ユアン王子の子供を産んで良いのだろうか?

「ジュアナ様?」

コーラン様が曇った表情の私を不思議そうに覗き込む。

「あ、いいえ」

作り笑顔を見せて、私は歩き出した。

初めは、もう後戻りできない、このまま死ぬまで偽り続けようだなんて思っていた。けれど、結婚するまでにはユアン王子に本当のことを言った方が良いのでは……?
だって、子供を持つということは世継ぎを産むということだ。次期国王の世継ぎ。この国の未来の国王、または女王となる存在。それは高貴な血でなければならない。卑しい使用人の血ではいけない。

誰がどう考えても、ただの一介の使用人の子供をこの国の世継ぎとしてはならないだろう。

ユアン王子は私の正体を知ったらどうするのかしら。やはり、騙されたとあの冷たい表情で処刑を言い渡すのだろうか。今、垣間見えた表情の変化はみることが出来なくなる。また能面のような、感情のないユアン王子を見ることになるのかしら……。

それは凄く残念な気がした。
もっとユアン王子のいろんな顔が見たい。その想いは日に日に強くなっていくのに……。

結婚式まであと一か月もない。

命は惜しい。本当は死にたくない。ただ、このまま偽り続け、子供を産んだところで私の罪悪感は消えない。精神的にやられてしまうだろう。

毎日、バレることを恐れながら生きることができるだろうか。私のような弱い人間には無理な気がする。

旦那様には申し訳ないけれど、正体は明かさなければならない。
そうなると、いつ言おう? 何て言おう? ……それまでには、死ぬ覚悟を決めておかねばならない。

恐怖心に襲われそうになっていると、先に行っていたユアン王子が私を待っていた。

「ユアン王子?」

どうしたのだろうと思っていると、ユアン王子は困ったような何とも言えない表情で私を振り返る。そしておもむろに私の手を取った。

「え?」
「遅い。行くぞ」

そしてそのまま私の手を引いて歩きだしたのだ。大きな右手が私の小さな左手を包む。温かくて大きな手だ。冷徹の王子からは想像も出来ないほど優しい手。

「ユアン王子……?」

見上げると、ユアン王子の耳がほのかに赤い気がする。黙ったまま手を離そうとはしない。

どうしよう……。胸がドキドキして苦しい。

赤く染まる頬が熱い自覚はある。左手に意識が全て行き、心臓がうるさくて緊張してしまう。それなのにずっとこうしていたい、ユアン王子の温もりを感じていたいと思ってしまう。

どうしてそんなことなんか……。

そんなことを思っても無駄なのに。私はジュアナではないし、いずれ死ぬ身なのに……。

浅はかな感情は早々に切り捨てなければならない。
ユアン王子は一言も話さないまま、そのまま私の部屋へと送ってくれた。