何……今の……。
《出来損ないの女の息子》
それがどういう意味か図りかねたまま、私は引きずられるように国王の住まいである塔を出た。
腕を掴むユアン王子の手は大きい。そして、怒りを感じているのか手が熱かった。私たちの後ろからコーラン様も追いかけて、ユアン王子に声をかける。
「ユアン様! お待ちください! ユアン様!」
慌てるコーラン様の声など王子の耳には入っていない様子だ。
溜まらず私は叫ぶようにユアン王子の名前を呼んだ。
「ユアン王子、痛いです!」
ユアン王子はハッとしたように立ち止まって私を振り返る。掴んでいた私の腕を見て、「すまない」と申し訳なさそうに呟いた。
眉を寄せて、険しい顔のまま。
こんなに感情を見せるなんて……。
国王陛下と対面したユアン王子は、私でもよくわかるくらいにその感情を見せていた。
常に冷静沈着で無慈悲。戦の場でも無表情に淡々とした様子だったと聞く。笑顔も怒りも動揺も、感情を見せたことがないという噂の冷徹の王子がこんなにも苦しそうな顔をするなんて思いもしなかった。
ユアン王子の人間的な部分に触れ、私はとてつもなく胸が苦しくなった。
どうしよう。許されるなら、今すぐ抱き締めて慰めてあげたい。そんな感情が沸きあがるほどに……。
先ほど吐き捨てられた国王陛下の言葉は私にはよくわからない。《出来損ないの女の息子》とは亡くなった王妃の事だろうか?
王妃はあまり表に出なかった人だったので、どういう人物かは国民はあまりわからない。
ただ今、国王陛下の私への発言や最後の言葉にユアン王子が怒りを感じ、苦しんでいるのはよくわかる。
辛そうな彼を抱きしめて、少しでもその心の傷を減らしたいと思ってしまう。おこがましいことは重々承知だけれど……。
私は無意識にユアン王子の手を掴んでいた。
「大丈夫ですよ、ユアン王子。大丈夫」
何が大丈夫なのかさっぱりわからないが、自然とそう言葉が出ていた。ユアン王子の手を優しく包み込むように握る。一瞬、ユアン王子の目が泳ぐが、手を離さない私に観念したのか深いため息をついた。
「ありがとう。落ち着いてきた」
「それなら良かったです」
眉間の皴もなくなり、初めて穏やかな顔を見せる。
なんだ、こんな顔もできるんじゃない。
この短時間でいろんな顔を見せてくれたことに少し喜びを感じてしまった。
「悪かった。言っただろう? 親父とは馬が合わないって。話すといつもああなって不快な思いをするんだ。俺が言うのもおかしいが、子供に対して温かさというものは持ち合わせない」
自嘲するように笑う。
「お前にも嫌な思いをさせてすまなかったな」
「いいえ。驚きはしましたけど、私は別に……」
そう言うと、ユアン王子は器用に片眉を上げた。
「別に? 気にしなかった? 親父が言ったこと」
ユアン王子は私の顔をじっと見る。まるで心を読もうとするかのようだ。
「えっと……、驚きはしましたけれど、なんというか現実味がないと言うか……。ピンと来なくて……」
「現実味はない、か。まぁ今は結婚前だしそうだろうな。ただ、先に言っておくが俺は性別など気にしない。世継ぎなどもどうとでもなる。元気な子供が産まれればそれでいい」
「はい。それはもちろん……」
そう言いかけて、ハッとする。
ん? え? 私たち、今何の話をしているの? 性別? 子供の? 元気な子供が産まれればって、それはつまり……。
《出来損ないの女の息子》
それがどういう意味か図りかねたまま、私は引きずられるように国王の住まいである塔を出た。
腕を掴むユアン王子の手は大きい。そして、怒りを感じているのか手が熱かった。私たちの後ろからコーラン様も追いかけて、ユアン王子に声をかける。
「ユアン様! お待ちください! ユアン様!」
慌てるコーラン様の声など王子の耳には入っていない様子だ。
溜まらず私は叫ぶようにユアン王子の名前を呼んだ。
「ユアン王子、痛いです!」
ユアン王子はハッとしたように立ち止まって私を振り返る。掴んでいた私の腕を見て、「すまない」と申し訳なさそうに呟いた。
眉を寄せて、険しい顔のまま。
こんなに感情を見せるなんて……。
国王陛下と対面したユアン王子は、私でもよくわかるくらいにその感情を見せていた。
常に冷静沈着で無慈悲。戦の場でも無表情に淡々とした様子だったと聞く。笑顔も怒りも動揺も、感情を見せたことがないという噂の冷徹の王子がこんなにも苦しそうな顔をするなんて思いもしなかった。
ユアン王子の人間的な部分に触れ、私はとてつもなく胸が苦しくなった。
どうしよう。許されるなら、今すぐ抱き締めて慰めてあげたい。そんな感情が沸きあがるほどに……。
先ほど吐き捨てられた国王陛下の言葉は私にはよくわからない。《出来損ないの女の息子》とは亡くなった王妃の事だろうか?
王妃はあまり表に出なかった人だったので、どういう人物かは国民はあまりわからない。
ただ今、国王陛下の私への発言や最後の言葉にユアン王子が怒りを感じ、苦しんでいるのはよくわかる。
辛そうな彼を抱きしめて、少しでもその心の傷を減らしたいと思ってしまう。おこがましいことは重々承知だけれど……。
私は無意識にユアン王子の手を掴んでいた。
「大丈夫ですよ、ユアン王子。大丈夫」
何が大丈夫なのかさっぱりわからないが、自然とそう言葉が出ていた。ユアン王子の手を優しく包み込むように握る。一瞬、ユアン王子の目が泳ぐが、手を離さない私に観念したのか深いため息をついた。
「ありがとう。落ち着いてきた」
「それなら良かったです」
眉間の皴もなくなり、初めて穏やかな顔を見せる。
なんだ、こんな顔もできるんじゃない。
この短時間でいろんな顔を見せてくれたことに少し喜びを感じてしまった。
「悪かった。言っただろう? 親父とは馬が合わないって。話すといつもああなって不快な思いをするんだ。俺が言うのもおかしいが、子供に対して温かさというものは持ち合わせない」
自嘲するように笑う。
「お前にも嫌な思いをさせてすまなかったな」
「いいえ。驚きはしましたけど、私は別に……」
そう言うと、ユアン王子は器用に片眉を上げた。
「別に? 気にしなかった? 親父が言ったこと」
ユアン王子は私の顔をじっと見る。まるで心を読もうとするかのようだ。
「えっと……、驚きはしましたけれど、なんというか現実味がないと言うか……。ピンと来なくて……」
「現実味はない、か。まぁ今は結婚前だしそうだろうな。ただ、先に言っておくが俺は性別など気にしない。世継ぎなどもどうとでもなる。元気な子供が産まれればそれでいい」
「はい。それはもちろん……」
そう言いかけて、ハッとする。
ん? え? 私たち、今何の話をしているの? 性別? 子供の? 元気な子供が産まれればって、それはつまり……。



