お嬢様の代わりに冷徹王子に嫁ぎます

国王陛下に挨拶へ行く途中、ユアン王子がコーラン様と待っていてくれた。

「遅れて申し訳ありません」
「いや……」

トークハットのレースの間からユアン王子をそっと見上げた。背が高いので顔は見えずらい。ただ、眉間にしわが寄っているのだけはよくわかる。

私と顔を合わせたくなかったのかな……。それとも国王に私を婚約者として紹介するのがそんなに嫌かしら……。それとも隣を歩くのも嫌?

どんどんと卑屈になっていく自分に内心ため息をつく。
そして、ハッとした。

まさか、王子は私の正体に気が付いている? だからこんなにも嫌そうにしているのかしら。国王陛下に挨拶へ行くのも名目で、本当は私に処罰を……。

そんなことを考えて血の気が引いた。ランチの時はなるべく俯いていたが、トークハットなどで顔は隠さなかった。
もしかしたら、ジュアナではないと気が付いていたのかもしれない。

あり得るわ。どうしよう……。ああ、処刑だけはどうしても避けたい。死ぬのだけは嫌……。

私は指にはめられた母の形見の指輪をそっと握る。

怖い、お母さん……どうしよう……。

私は意を決して声を出した。

「あ、あの……」

すると、怪訝そうにコーラン様とユアン王子が振り返った。無言の圧に言葉が詰まる。

「あの……、その、私……」

あぁ、どうしよう……。言葉が続かない……。呼び止めたはいいけれど、なんて言えばいいの……。

私が青い顔で言葉を詰まらせていると、コーラン様がユアン王子に目くばせをした。それを受け、ユアン王子は少し気まずそうに頭をかいて私に向き合う。

「あ~、なんだ、その……。悪かった」
「え……?」

ユアン王子の謝罪に首を傾げる。

今、謝った? どうして?

「この間の事。俺はお前とのランチタイムを短縮したいとか、嫌だとかは思っていない。気楽に食べて、リラックスしながら過ごしたいと思っているだけだ」
「……はい?」

一体何の話なのか分からず、キョトンとしてしまったが、どうやら先日のランチ時の態度を謝ってくれていると気が付いた。

「とんでもないです! 謝らないでください。ユアン王子がお忙しいのは承知しております。私なんかのためにわざわざあのような場を設けてくださったのも……」
「だから、そうじゃない。俺がそうしたくてしているんだ。お前は何も気にするな!」

シュンと俯く私にユアン王子は少しばかり焦った様子でそう弁解した。王子の初めて見る様子に思わず目を瞠る。

こんなに困った様子のユアン王子は初めて見たわ。能面のような冷たい顔が変わった……。

驚く私に気にも留めず、さらに王子は言った。

「それと、今俺が不機嫌なのは国王に会いに行くからであって、お前が原因とかではない。そこは勘違いするな」

真剣な顔で真っすぐ見つめられ、釣られるようにコクリと頷く。嘘は言っていないと思う。本当に、私が理由でというわけではないなら安心だ。

今、私が不安に思って言いたかったこととは違ったが、ユアン王子なりに様子を察して原因を解決しようとしてくれたのだろう。
私のことが嫌でというわけではないなら、そこは少しホッとする。そしてひとつ気になることを尋ねてみた。

「わかりました。あの、ユアン王子は陛下とお会いしたくはないのですか?」

眉間の皴は国王に挨拶へ行くせいだという。
国王とはいえ、自分の親だ。そこまで嫌そうな顔をしなくてもと思うが、何かあるのだろうか。

「国王とはあまり馬が合わない。子供の頃から、極力会いたい人ではなかったんだ」
「そう……ですか……」

ユアン王子は心底嫌そうにため息をつく。
親子でもいろんな人がいる。親子とはいえ、性格や考えが合わない場合もあるだろう。特に、国王とその息子という特殊な環境においてはなおさらだ。

私はそれ以上突っ込むことは止めた。

「だから、別にお前がどうとかいうことではないから。そこだけは忘れるな」
「はい。ありがとうございます」

念を押すような言い方をするユアン王子に思わず笑みが浮かぶ。

必死に誤解を解こうとするユアン王子の姿が身近に感じられたのだ。冷徹の王子の人間らしい所を垣間見れた気がする。

そう感じるだけで、胸の中がほっこりと温かくなるのを感じた。自分はなんて単純なんだろう。それでも、夫となる人の冷たい部分以外が見れたのが嬉しかったのだ。