お嬢様の代わりに冷徹王子に嫁ぎます

ある日の朝。身支度を終えたところで、コーラン様が部屋にやってきた。
少し焦った様子のコーラン様に、不安な気持ちが広がる。

何かあったのだろうか。もしかして私がエルマだとバレた?

しかし、コーラン様は全く予想していなかったセリフを口にした。

「ユアン様と揃って国王陛下に結婚のご挨拶をしていただきます」
「国王……陛下!?」

そう言えばまだ一度もお会いしていない。

ユアン様は王子殿下なのだから、当然国王陛下はその父親。

一気に緊張が高まると、コーラン様は少しだけ険しい顔で周囲の侍女に指示出しを始めた。

「急で申し訳ありません。今朝がた、陛下がお会いしたいと申しまして……。まぁ、どのみちここは避けては通れませんからね」

そう言うと、国王への挨拶や手順を一通り教えてくれた。

真剣に耳を傾けるが、緊張してきて小さく手が震える。
ただの庶民の私が国王陛下にお目通りするなんて……。本当はあり得ないことだ。

私の緊張をよそに、リリーさんは手早く身支度を始める。
国王陛下がお好きだという淡い紫色のドレスに、控えめなアクセサリー。そして、私の強い希望で、白い小さくてシンプルなトークハットを被り目元部分をレースで覆った。

顔が隠れている。国王に面会してもジュアナではないと疑われることはない。……たぶん。

それにしても……、ユアン王子と一緒か……。

あの気まずいランチから1週間。
その間、ユアン王子は公務で外出することが多く、ランチを共にすることはなかった。だから正直、少しホッとしていた。

私との無駄な時間をお仕事に費やしてもらえる、顔を見なくて済むからジュアナお嬢様だと気が付かれるリスクが減る、そんなことばかりを考えていた。

いや……、そんなことばかりではないけれど……。
ユアン王子には迷惑をかけたくない。顔を合わせるのは気まずい。それなのに、心のどこかで私のことを気にしてほしい、見てほしいと思っている。

それが何故だかはわからない。でも、ランチをしなくてよいという安堵より、そちらのことを考える方が多い気がするのだ。

そんな話をすると、リリーさんに同情された。

「ジュアナ様……。そこまでして、ユアン王子様のことを気にかけなくてよろしいかと思いますよ。使用人たちは皆、ジュアナ様を気の毒に思っています。あの王子様に無理やり嫁がされたと……。こう言っては何ですが、政略結婚なのですから無理に夫婦であろうとしなくても大丈夫ですよ。先の国王と女王もそうでしたから……」

慰める様に、優しくそう話してくれた。リリーさんには私がどうにかして夫婦らしく出来るよう、無理をしているように映るようだ。

別に無理して気にかけているわけではないんだけど……。ただ常にユアン王子が頭に浮かぶのよね。なんでだろう……。

リリーさんには曖昧に笑みを返した。