お嬢様の代わりに冷徹王子に嫁ぎます

子供の頃は、いわゆるシンデレラストーリーとかに憧れたりはした。

使用人の私が、ある日突然王子様に見初められて、あれよあれよという間に恋をして結婚をしてお城で暮らす。もう誰にも虐げられることもない幸せな生活を送るのだと……。そんな幼い夢を見たことだってある。

でも、現実はそんなことは起こりはしない。使用人は使用人のままだし、シンデレラになれるはずがないのだ。

だが……。

「今の私は世間一般的にはシンデレラなのかしら?」

寝起きで目に映った広く高い天井に、豪華な装飾を見てそんなことを思う。寝る前に、どうか夢であってほしいと願ってしまったが、やはりそんな都合のいいことは起きなかった。

シンデレラを夢見たが、こんな展開は望んでいない。
今まで寝たことがないようなふかふかのベッドに、肌触りの良いシーツを感じながら大きなため息が出た。
すると、寝室の扉が控えめにコンコンとノックされる。

「はい」
「おはようございます。ジュアナ様。朝食のご準備が出来ました」
「ありがとうございます……」

侍女らしき声がして、隣の部屋から食器の音がする。

ジュアナ様か……。

もうエルマではないのだと、もうその名で呼ばれることはないのだと痛感する。
再びため息をつくと、サッと身なりを直してガウンを羽織り、寝室の扉を開けた。リビングのテーブルには所狭しと美味しそうな朝食が並べられていた。

柔らかそうなパンに、温かなスープ。卵料理にサラダにお肉にお魚……。飲み物も三種類は用意されている。こんな料理、今までに食べたことはないわ。凄く美味しそう!!

ラニマール家の朝食でもここまで豪華ではなかった。この朝食だけで、自分がこのお城でどんな扱いなのかを実感させられる。

でも、そう呑気でいられないわ。

椅子を引かれ席に着くが、私の頭の中はマナーのことでいっぱいだった。
たかが朝食。されど朝食。何人もの侍女らの前で、おかしな食べ方をしたら怪しまれてしまう。

うう~。どうしょう~……。見られながらなんて緊張して食べられないわ。でも、食べなかったらそれはそれで怪しまれるし……。

料理を前にどうしようかと考え、一か八かとある提案をする。

「あの……、実は見られながらの朝食って気が進まなくて……。慣れない場所ですし、一人でゆっくり食べたいのですが……」

恐る恐る言うと、彼女らは心得たかのようににっこりと微笑んだ。

「畏まりました。私たちは外で控えていますね」

そう言って、不審がる様子もなく部屋を出て行ってくれた。
一人になって、私はテーブルに肘をついて顔を覆う。

「良かった~」

ジュアナお嬢様の食べるところをよく見ていたから、テーブルマナーも少しは頭には入っているけれど、実践したことがないから不安だった。侍女たちはマナーなど見慣れているだろう。少しでも間違えたりお菓子な食べ方をしたら変に思われる。

このチャンスを逃してはいけないわ! 今のうちに練習しておかなければ!

私は戸惑いながらもゆっくりとフォークとナイフを持ち、ジュアナお嬢様のマナーを思い出しながら食事を始めた。
確かナイフは音を立てずにそっと引いて……。

料理を一口食べて目を丸くする。

んん~!! ものすごく美味しい! こんなおいしい料理、初めて食べたわ!

いつもお屋敷で食べていた賄いは、シェフが余り物で作ってくれていた。時には、お嬢様たちに出す分を少し余計に作って特別に出してくれたこともあった。
あれも十分美味しかったけれど、さすがは王宮。全く比べ物にならない。

ジュアナに成りすましているからこそ食べられる。

ほんの少しだけ、得した気分になってしまった。