お嬢様の代わりに冷徹王子に嫁ぎます

思わず見入っていると、その色っぽい唇が弧を描いた。

「俺の顔に何かついているか?」
「あ、いいえ! とんでもございません。不躾に失礼いたしました!」

指摘されたことで我に返り、急いで謝罪をする。ジロジロとみてしまったことが恥ずかしい。

「別にいい。俺の名はユアンだ。ユアン・ベル・イルベルザンド」

イルベルザンド……。この国はイルベルザンド王国。ということは、この人は間違いなく王子だ。

お嬢様はこのお方と結婚するはずだったのか。王子がこんなに美しい人だと知っていたのだろうか。知ったうえで、やはり冷徹の王子とは結婚したくなかったのだろうか。

ジュアナお嬢様の気持ちを考えていると、ユアン王子が面倒くさそうな声で言った。

「式は一月後に執り行う。お前はこれからドレスや王式マナーなど、学ぶことが多くなるから忙しくなるがいいな?」
「はい。承知いたしました」

もうスケジュールは決まっていたのか。婚約が決まった時点で、色々と動き出していたんだ。もしこれで私が身代わりになっていなかったら、ラニマール家は追放されていたかもしれない。どのみち、私は職を失っていたのだろう。

私は一生ここでジュアナとして生きていくんだ。

覚悟はまだついていない。でも、ほかに道がなかった。

「ではお部屋へご案内いたします」
「はい」

コーラン様に促され、扉の方へ踵を返し出て行こうとするとユアン王子が後ろから声をかけた。

「おい、待て」
「は、はい!」

慌てて振り返ると、玉座からこちらをじっと見つめてくるユアン王子。その瞳はどこか探るような、とても冷たい目をしていた。
思わず背筋がゾッとする。感情のない冷めた目は私の心に刺さってきた。

「な、なにか?」

かろうじて声を出すと、ユアン王子はつまらなそうに「いや、いい」と答え、出て行けと手をぞんざいに降ったのだ。

なにか粗相をしてしまったかしら? まさか、私がジュアナお嬢様ではないって気が付いた……?
いや、まさかそんなはずはない。気が付いていたら顔を上げた時点で何か反応はあるだろう。そもそも、二人がどこまで面識があるのか私にはわかっていなかった。
ほとんど会ったことはないと、お嬢様から聞いてはいたけど……。実際にはどうなのだろうか。

あの冷たい目は余り直視したくはない。冷徹の王子というのはあの目もあるのではと思うほどだった。
考え込んでいると、コーラン様が私を覗き込んでいた。

「ジュアナ様? 大丈夫ですか?」
「あ、はい」

コーラン様はユアン王子とは対照的に穏やかな微笑みを浮かべている。氷かけた心が解かされるようだ。

「ユアン様とお会いしてどうでしたか?」
「あ……。えっと……、本当にとてもお綺麗なお方ですね」

まるで前からわかっていたかのような口ぶりでそう答える。私は初対面だけど、ジュアナお嬢様は最低でも一回はユアン王子を見たことがあるはずだから。

「そうですね」

コーラン様は少し複雑そうに小さく笑った。