サヨナラを言う準備は出来ていた。

帰り道、どうかベランダにいてくれと願いながら走ったあの焦燥感は忘れられない。
お前は今年は、陸部のやつらと約束しなかったの?


「私は……受験勉強しなきゃ、だし。中三だし。遊んでる暇なんて……ないし」


何やら言い訳じみたことを口にしながら、那月はどんどん俯いていく。
確かに那月は疲れた顔をしていた。目の下にはクマが出来ていて、顔色も悪い。勉強を頑張っているんだろう。

サッカーが出来ればどこでもいいや、とバカでも入れると言われる高校をずっと進路の第一希望にしていた俺と違って、那月はこの辺でもかなり偏差値の高い高校を志望していた。
東大を目指してるとかではなく、その高校の陸上部が、いちばん熱心な指導をしているからだ。
那月は県大会でも上位に入る、女子陸上部のエースだ。昔から、勉強と足の速さだけは那月には敵わなかったんだよな。球技は俺のほうが上手いけど。

段々と花火が打ちあがる速度が上がり、夜空に咲く花が増えていく。遠くから歓声も聞こえてきた。
鮮やかな光に照らされる那月の横顔をじっと見る。今日は髪しばってないんだな。