雪月は、スマホを開き、縁に送る。今度、お米が美味しいカフェに行きませんか?すぐに既読がつき
いいですよ行きましょう!ときた。
木の温もりがある小さな店内に入ると、やわらかな空気が二人を包んだ。
カウンターの奥には、米農家のご夫婦が立っている。
雪月は自然な笑顔で一歩前へ出た。
「いつものセット、お願いします。」
声で伝えたあと、同時に手話でも丁寧に同じ内容を伝える。
ご夫婦はその手元を見て、ゆっくりとうなずいた。
「分かりました。ありがとうございます。」
穏やかな声と笑顔。
そして、最後に奥さんが少し嬉しそうに続ける。
「今日のデザートは、パンナコッタです。」
雪月は笑顔で「楽しみにしています」と返し、軽く会釈した。
席に戻る途中、縁が小さく尋ねる。
「今の、手話もしてたね。」
雪月は頷いた。
「はい。ご夫婦、北海道の出身で……お二人とも聴覚障害者の方なんです。」
「そうなんだ。」
「だから、時々こうやって手話でお話しするんですよ。」
縁は少しだけ驚いたあと、静かに店内を見渡した。
言葉の音は少ないのに、不思議と温かい空気が流れている。
「いい場所だね。」
「はい。ここ、すごく好きなんです。」
雪月は嬉しそうに笑った。
しばらくすると、料理が運ばれてくる。
木のお盆の上には、湯気の立つ豚汁。
具沢山で、大根、にんじん、こんにゃく、豚肉がたっぷり入っている。
その横には、大きめのおにぎりが二つ。
ふっくらと握られた米粒が光り、見ただけで温かさが伝わってくる。
小さなサラダも添えられていた。
「わあ……。」
雪月は思わず声を漏らした。
「おにぎり、思ったより大きいね。」
縁が笑う。
「ほんとだな。」
二人は「いただきます」と小さく声をそろえる。
豚汁を一口飲んだ雪月は、ほっとしたように目を細めた。
「やさしい味……。」
「うまいな、これ。」
縁も素直にそう言う。
雪月はおにぎりを見つめながら、少し嬉しそうに続けた。
「ここに来ると、ちゃんと食べてるって感じがするんです。」
縁はその言葉を聞きながら、小さく頷いた。
──こういう場所を好きな人なんだ。
派手じゃない。
静かで、やさしくて、人の手の温度がある場所。
その横で雪月は、幸せそうにおにぎりを頬張っていた。
その表情を見て、縁もまた静かに思う。
──この時間が、ずっと続けばいいのに、と。
豚汁の湯気がゆっくりと立ちのぼる中、二人はしばらく黙って食事を続けていた。
おにぎりは思っていた以上に大きく、一口ごとに米の甘さが広がる。
「ここ、本当に落ち着きますね。」
雪月がぽつりと呟く。
縁は小さく頷いた。
「うん。なんか、時間がゆっくりしてる感じがする。」
サラダを食べながら、雪月はふと思い出したように縁を見た。
「さっきの手話のことなんですけど。」
「うん?」
「私、高校生のときから手話を学んでたんです。」
縁は箸を止める。
「そうなんだ。」
雪月は少し照れたように笑った。
「特別な理由があったわけじゃないんですけど……」
一瞬、言葉を探すように視線を落とす。
「ただ、人とちゃんと話したいなって思って。」
豚汁の器を両手で包みながら、続けた。
「声が出るとか出ないとか関係なく、ちゃんと伝えたいなって。」
縁は何も急かさず、そのまま聞いていた。
雪月は縁のほうを見て、少しだけ微笑む。
「だから、このお店みたいな場所、好きなんです。」
「言葉が少なくても、ちゃんと通じる感じがして。」
縁は静かに頷いた。
「ここ、いい場所だなって思ってたけど……」
少しだけ間を置く。
「そういう理由で好きな人がいると、もっといい場所に見えるな。」
雪月は驚いたように縁を見て、それからふっと笑った。
「褒められてます?」
「たぶん。」
二人の間に、やわらかい沈黙が落ちる。
外では風が木々を揺らし、店内にはおにぎりの湯気とコーヒーの香りが混ざっていた。
雪月は小さく豚汁をすすりながら、少しだけ幸せそうに目を細めた。
縁はそんな彼女を見て、思った。
──この人は、ちゃんと人と向き合おうとしてる。
その真っ直ぐさが、静かに胸の奥に残っていく。
会計の時間になると、雪月は少しだけ早く立ち上がった。
「先日は払ってもらったので、今日は私が払いますね。」
真っすぐな声だった。
縁は一瞬だけ驚いたように目を上げる。
「いや、いいんだよ。」
「でも……」
「いいって。」
短く、しかし迷いのない声。
雪月は少しだけ困ったように笑い、それ以上は何も言わなかった。
店を出ると、風が少しだけ強くなっていた。
その日からだった。
いいですよ行きましょう!ときた。
木の温もりがある小さな店内に入ると、やわらかな空気が二人を包んだ。
カウンターの奥には、米農家のご夫婦が立っている。
雪月は自然な笑顔で一歩前へ出た。
「いつものセット、お願いします。」
声で伝えたあと、同時に手話でも丁寧に同じ内容を伝える。
ご夫婦はその手元を見て、ゆっくりとうなずいた。
「分かりました。ありがとうございます。」
穏やかな声と笑顔。
そして、最後に奥さんが少し嬉しそうに続ける。
「今日のデザートは、パンナコッタです。」
雪月は笑顔で「楽しみにしています」と返し、軽く会釈した。
席に戻る途中、縁が小さく尋ねる。
「今の、手話もしてたね。」
雪月は頷いた。
「はい。ご夫婦、北海道の出身で……お二人とも聴覚障害者の方なんです。」
「そうなんだ。」
「だから、時々こうやって手話でお話しするんですよ。」
縁は少しだけ驚いたあと、静かに店内を見渡した。
言葉の音は少ないのに、不思議と温かい空気が流れている。
「いい場所だね。」
「はい。ここ、すごく好きなんです。」
雪月は嬉しそうに笑った。
しばらくすると、料理が運ばれてくる。
木のお盆の上には、湯気の立つ豚汁。
具沢山で、大根、にんじん、こんにゃく、豚肉がたっぷり入っている。
その横には、大きめのおにぎりが二つ。
ふっくらと握られた米粒が光り、見ただけで温かさが伝わってくる。
小さなサラダも添えられていた。
「わあ……。」
雪月は思わず声を漏らした。
「おにぎり、思ったより大きいね。」
縁が笑う。
「ほんとだな。」
二人は「いただきます」と小さく声をそろえる。
豚汁を一口飲んだ雪月は、ほっとしたように目を細めた。
「やさしい味……。」
「うまいな、これ。」
縁も素直にそう言う。
雪月はおにぎりを見つめながら、少し嬉しそうに続けた。
「ここに来ると、ちゃんと食べてるって感じがするんです。」
縁はその言葉を聞きながら、小さく頷いた。
──こういう場所を好きな人なんだ。
派手じゃない。
静かで、やさしくて、人の手の温度がある場所。
その横で雪月は、幸せそうにおにぎりを頬張っていた。
その表情を見て、縁もまた静かに思う。
──この時間が、ずっと続けばいいのに、と。
豚汁の湯気がゆっくりと立ちのぼる中、二人はしばらく黙って食事を続けていた。
おにぎりは思っていた以上に大きく、一口ごとに米の甘さが広がる。
「ここ、本当に落ち着きますね。」
雪月がぽつりと呟く。
縁は小さく頷いた。
「うん。なんか、時間がゆっくりしてる感じがする。」
サラダを食べながら、雪月はふと思い出したように縁を見た。
「さっきの手話のことなんですけど。」
「うん?」
「私、高校生のときから手話を学んでたんです。」
縁は箸を止める。
「そうなんだ。」
雪月は少し照れたように笑った。
「特別な理由があったわけじゃないんですけど……」
一瞬、言葉を探すように視線を落とす。
「ただ、人とちゃんと話したいなって思って。」
豚汁の器を両手で包みながら、続けた。
「声が出るとか出ないとか関係なく、ちゃんと伝えたいなって。」
縁は何も急かさず、そのまま聞いていた。
雪月は縁のほうを見て、少しだけ微笑む。
「だから、このお店みたいな場所、好きなんです。」
「言葉が少なくても、ちゃんと通じる感じがして。」
縁は静かに頷いた。
「ここ、いい場所だなって思ってたけど……」
少しだけ間を置く。
「そういう理由で好きな人がいると、もっといい場所に見えるな。」
雪月は驚いたように縁を見て、それからふっと笑った。
「褒められてます?」
「たぶん。」
二人の間に、やわらかい沈黙が落ちる。
外では風が木々を揺らし、店内にはおにぎりの湯気とコーヒーの香りが混ざっていた。
雪月は小さく豚汁をすすりながら、少しだけ幸せそうに目を細めた。
縁はそんな彼女を見て、思った。
──この人は、ちゃんと人と向き合おうとしてる。
その真っ直ぐさが、静かに胸の奥に残っていく。
会計の時間になると、雪月は少しだけ早く立ち上がった。
「先日は払ってもらったので、今日は私が払いますね。」
真っすぐな声だった。
縁は一瞬だけ驚いたように目を上げる。
「いや、いいんだよ。」
「でも……」
「いいって。」
短く、しかし迷いのない声。
雪月は少しだけ困ったように笑い、それ以上は何も言わなかった。
店を出ると、風が少しだけ強くなっていた。
その日からだった。

