大学時代の友人たちと女子会という名の飲み会が開催されたのは、六月の下旬に差し掛かった頃の金曜日だった。輝生にはあらかじめ〝夕食は不要だ〟と伝え、柚月は仕事が終わってから電車に乗った。五分ほど都会のほうへ向かい、待ち合わせたのは大きなターミナル駅の改札の前だ。
仕事帰りのサラリーマンが多かったけれど、柚月は無事に友人たちと合流した。積もる話はさておいて予約していた店に向かい、飲み物を注文してから乾杯した。
「みんな仕事どう? 先輩とコミュニケーションとか取れてる?」
初めはそんな話で盛り上がった。
教育担当になったのがオバサンで、楽ではあるけれどトキメキがない、とか。同じ部署にはオジサンしかいなくて、若さを求めて違う部署へ用事もないのに行ってしまう、とか。若いイケメンはいるけれど、長く付き合っている彼女がいるようで残念、とか。先輩たちが厳しくていじめられる、という友人はいなかったので、このまま全員が仕事を続けられそうで嬉しい報告だった。
「そろそろ仕事も慣れなあかんのやろうけど、間違えたらあかん、と思ったら余計に間違えへん?」
「あっ、それある! 部長がめっちゃ怖くて、書類とか提出前に間違いないか必死で見てる!」
柚月も同じような状況だったので、友人たちの話にだいたい同調していた。先輩たちは優しいし同期とも仲は良いけれど、部長クラスのオジサンたちにはなかなか慣れなくて緊張していた。
「あの、盛り上がってるところ、個人的な報告なんやけど」
言い出したのは、女子会をしようと言い出した友人だ。
「どうしたん?」
「実は私──プロポーズされました!」
「ええ! おめでとう!」
彼女はどうやら、その報告がしたくてメンバーを集めたらしい。学生の頃から年上の恋人の話はときどき聞いていて、卒業後も頻繁にデートしていると噂を聞いていた。アルバイト先で店長をしていた人で、プロポーズ前からお互いの両親には会っていたらしい。
「良いなぁ。仕事はどうするん?」
「続けるよ。まだ入ったとこやし、辞めたくないし」
でも子供ができたら休むか辞めるかはわからない、と言いながら、彼女を中心に恋人との自慢話披露大会が始まってしまった。柚月も初めは羨ましそうに聞いていたけれど、途中から辛くなってきてしまった。友人の幸せな報告は嬉しいけれど、直幹にフラれたあとの柚月には聞きたくない話だった。
「柚月、どうしたん? 大丈夫?」
「うん、大丈夫。……え? なに?」
「そういえば柚月──、彼氏にフラれたんやったなぁ」
なのに盛り上がってごめん、と友人たちは柚月に謝った。
「良いよ良いよ、もう吹っ切れてるし!」
事情もすべて話してあったので、器の小さい男だった、と笑った。嫌いで別れたわけではないので今もきっと好きではあるけれど、いつの間にか彼のことを考えなくなっていた。
「合コンも失敗続きって聞いたんやけど、そうなん?」
「会社に良い人おらんの?」
友人たちの質問に、柚月は輝生のことを話すかどうか迷っていた。複数の視線が集まる中で、口を開けなかった。
「引っ越したら? 男の人とルームシェアってさぁ、嫌がる人がほとんどやと思うで」
「そうそう。男って知らんかったんやろ? 家賃払わんで良いのはありがたいけどな」
「うん……そうなんやけどね……」
歯切れの悪い柚月の言葉に、友人たちは感が鋭く働き始めたらしい。
「柚月、もしかして──その人と、付き合ってる?」
「ちがっ、さすがにそれは」
本当のことを言うと付き合いたいけれど今は片想いだ、と柚月は打ち明けた。輝生が好きだと気付いた夜は胸が苦しくてなかなか眠れなくて、朝も起きられずに輝生に怒られた。普段から彼の顔はあまり見ずに接していたので特に不審に思われることもなく、なんとか気持ちに気付かれないようにしていた。
「前は〝彼氏のほうが顔は好み〟って言ってたけど、それはどうなん?」
「顔は……格好良いよ。ずっとさぁ、大学に入ってから直幹しか知らんかったから、それが普通になってたけど……何て言うんやろ? 年上やから経験豊富やろうし、安心しかない」
一緒に暮らしていることも慣れたし、柚月はまだそれほど料理は上手くないけれど、彼の味付けにもすっかり慣れた、というより、最初から柚月の口にあっていた。背が高いので高いところの物は取ってもらえるし、仕事も店長を任されているし、たったの五歳差ではあるけれど、直幹と比べると大人の余裕を感じてしまっていた。
「告白まだしてないんやろ?」
「うん。どう思われてるかわからんし」
「早く告白し? そんな格好良いんやったら、知らん間に取られんで」
「それは、ない……はず」
柚月は友人たちに〝輝生は無益な付き合いはしない人だ〟と話した。たとえ相手がどんなに美人でも中身が伴っていなければ付き合う選択肢はない、と話していた。
「外見は良いから、寄ってくる美女も多いやろうけど……だいたいさぁ、そんなん、顔しか見てないやん?」
「柚月は顔じゃないん?」
「えっ、顔は、後かなぁ。出会ったときは、直幹のほうが良い、って思ってたし」
輝生の顔が良い、とは最初に思ったけれど。
同級生か、離れても二学年上としか付き合ってこなかったので、恋人は若く見えることが普通になっていた。だから初対面で輝生が大人に見えた時点で恋愛対象外だったし、五歳上と知って、価値観が合うのかも分からなかった。就職して年上男性と日常的に話すようになり、直幹が子供に思えてきて、輝生の良さに気付くようになった。顔を観察するようになったのは、最近になってからだ。
「柚月がいつまで耐えられるかやな」
「その人が彼女作ってくるのが先か、柚月が告白するのが先か」
「……告白したとしても、フラれるかもしれんし」
「いや、柚月、後ろ向きに考えるのやめよ? 前向きに!」
「うん……。あー、私どうしたら良いん? もしフラれたらさぁ、ルームシェアとか無理やわ」
「ああ、そうか……なかなか気まずいな。やったら、告白するの迷うなぁ」
そのあとしばらく、柚月は輝生への想いを友人たちに話した。あれもこれも、とたくさん出てきて、輝生が好きだと改めて実感してしまった。
仕事帰りのサラリーマンが多かったけれど、柚月は無事に友人たちと合流した。積もる話はさておいて予約していた店に向かい、飲み物を注文してから乾杯した。
「みんな仕事どう? 先輩とコミュニケーションとか取れてる?」
初めはそんな話で盛り上がった。
教育担当になったのがオバサンで、楽ではあるけれどトキメキがない、とか。同じ部署にはオジサンしかいなくて、若さを求めて違う部署へ用事もないのに行ってしまう、とか。若いイケメンはいるけれど、長く付き合っている彼女がいるようで残念、とか。先輩たちが厳しくていじめられる、という友人はいなかったので、このまま全員が仕事を続けられそうで嬉しい報告だった。
「そろそろ仕事も慣れなあかんのやろうけど、間違えたらあかん、と思ったら余計に間違えへん?」
「あっ、それある! 部長がめっちゃ怖くて、書類とか提出前に間違いないか必死で見てる!」
柚月も同じような状況だったので、友人たちの話にだいたい同調していた。先輩たちは優しいし同期とも仲は良いけれど、部長クラスのオジサンたちにはなかなか慣れなくて緊張していた。
「あの、盛り上がってるところ、個人的な報告なんやけど」
言い出したのは、女子会をしようと言い出した友人だ。
「どうしたん?」
「実は私──プロポーズされました!」
「ええ! おめでとう!」
彼女はどうやら、その報告がしたくてメンバーを集めたらしい。学生の頃から年上の恋人の話はときどき聞いていて、卒業後も頻繁にデートしていると噂を聞いていた。アルバイト先で店長をしていた人で、プロポーズ前からお互いの両親には会っていたらしい。
「良いなぁ。仕事はどうするん?」
「続けるよ。まだ入ったとこやし、辞めたくないし」
でも子供ができたら休むか辞めるかはわからない、と言いながら、彼女を中心に恋人との自慢話披露大会が始まってしまった。柚月も初めは羨ましそうに聞いていたけれど、途中から辛くなってきてしまった。友人の幸せな報告は嬉しいけれど、直幹にフラれたあとの柚月には聞きたくない話だった。
「柚月、どうしたん? 大丈夫?」
「うん、大丈夫。……え? なに?」
「そういえば柚月──、彼氏にフラれたんやったなぁ」
なのに盛り上がってごめん、と友人たちは柚月に謝った。
「良いよ良いよ、もう吹っ切れてるし!」
事情もすべて話してあったので、器の小さい男だった、と笑った。嫌いで別れたわけではないので今もきっと好きではあるけれど、いつの間にか彼のことを考えなくなっていた。
「合コンも失敗続きって聞いたんやけど、そうなん?」
「会社に良い人おらんの?」
友人たちの質問に、柚月は輝生のことを話すかどうか迷っていた。複数の視線が集まる中で、口を開けなかった。
「引っ越したら? 男の人とルームシェアってさぁ、嫌がる人がほとんどやと思うで」
「そうそう。男って知らんかったんやろ? 家賃払わんで良いのはありがたいけどな」
「うん……そうなんやけどね……」
歯切れの悪い柚月の言葉に、友人たちは感が鋭く働き始めたらしい。
「柚月、もしかして──その人と、付き合ってる?」
「ちがっ、さすがにそれは」
本当のことを言うと付き合いたいけれど今は片想いだ、と柚月は打ち明けた。輝生が好きだと気付いた夜は胸が苦しくてなかなか眠れなくて、朝も起きられずに輝生に怒られた。普段から彼の顔はあまり見ずに接していたので特に不審に思われることもなく、なんとか気持ちに気付かれないようにしていた。
「前は〝彼氏のほうが顔は好み〟って言ってたけど、それはどうなん?」
「顔は……格好良いよ。ずっとさぁ、大学に入ってから直幹しか知らんかったから、それが普通になってたけど……何て言うんやろ? 年上やから経験豊富やろうし、安心しかない」
一緒に暮らしていることも慣れたし、柚月はまだそれほど料理は上手くないけれど、彼の味付けにもすっかり慣れた、というより、最初から柚月の口にあっていた。背が高いので高いところの物は取ってもらえるし、仕事も店長を任されているし、たったの五歳差ではあるけれど、直幹と比べると大人の余裕を感じてしまっていた。
「告白まだしてないんやろ?」
「うん。どう思われてるかわからんし」
「早く告白し? そんな格好良いんやったら、知らん間に取られんで」
「それは、ない……はず」
柚月は友人たちに〝輝生は無益な付き合いはしない人だ〟と話した。たとえ相手がどんなに美人でも中身が伴っていなければ付き合う選択肢はない、と話していた。
「外見は良いから、寄ってくる美女も多いやろうけど……だいたいさぁ、そんなん、顔しか見てないやん?」
「柚月は顔じゃないん?」
「えっ、顔は、後かなぁ。出会ったときは、直幹のほうが良い、って思ってたし」
輝生の顔が良い、とは最初に思ったけれど。
同級生か、離れても二学年上としか付き合ってこなかったので、恋人は若く見えることが普通になっていた。だから初対面で輝生が大人に見えた時点で恋愛対象外だったし、五歳上と知って、価値観が合うのかも分からなかった。就職して年上男性と日常的に話すようになり、直幹が子供に思えてきて、輝生の良さに気付くようになった。顔を観察するようになったのは、最近になってからだ。
「柚月がいつまで耐えられるかやな」
「その人が彼女作ってくるのが先か、柚月が告白するのが先か」
「……告白したとしても、フラれるかもしれんし」
「いや、柚月、後ろ向きに考えるのやめよ? 前向きに!」
「うん……。あー、私どうしたら良いん? もしフラれたらさぁ、ルームシェアとか無理やわ」
「ああ、そうか……なかなか気まずいな。やったら、告白するの迷うなぁ」
そのあとしばらく、柚月は輝生への想いを友人たちに話した。あれもこれも、とたくさん出てきて、輝生が好きだと改めて実感してしまった。



