日常から恋愛を取り払って仕事に専念した結果、柚月は他のマーケティング部の同期たちよりも早く仕事を覚えた。任せてもらえる仕事も増えて、おかげで本当に直幹のことを忘れることができた。
フラれたときは悲しかったけれど、仕事ができるようになったので感謝もしていた。輝生とも──もちろん恋愛関係ではないけれど──特に気にせず話ができるようになってきたし、彼も気にせずだらしない格好でいることが増えた。
直幹にフラれたことと理由を、大学時代の友人たちには教えた。だから気をつけるように言ったのに、と言われたけれど、半分は聞き流した。今更どうすることもできないし、初めは不満だった輝生との暮らしも満足ではないけれど受け入れてしまっていた。文句を言われることはあるけれど、彼を嫌いにはなれなかった。
「北原さんてさぁ、家近くって言ってたよなぁ?」
聞いてきたのは、以前に柚月に近づこうとしてきた男性だ。柚月は断ったけれど、彼はいまだに諦めずに柚月にアピールを続けている。
「はい。五分くらいのとこです」
「良いなぁ。羨ましいわ……。いや、待って、五分くらいのとこにマンションある? 一人暮らしやろ?」
「……実家は出たけど、一人ではないです」
言っている意味がわからなかったようで、彼はまばたきをしながら柚月を見ていた。
「北原さん、ルームシェアしてるんやって」
助けてくれるのは、いつも先輩だ。
「あ、なるほど。相手どんな子なん?」
彼はきっと、女性だと信じて聞いているけれど。
先輩も〝どう答える?〟という顔で柚月を見ていたけれど。
「相手──男の人です。年上の」
柚月が本当のことを言うと、話を聞いていた全員が驚いて振り返ってしまった。先輩と一部の同期は、知っていたので特に表情を変えなかった。
「男とルームシェアしてんの?」
「それ──、ヤバない? 何歳?」
輝生が柚月に手を出してきそうな気配は、今のところ本当にない。暑いから、と言って上半身裸のこともあって柚月は服を着るようにお願いするけれど、輝生は面倒くさそうにしてから柚月から離れていく。風に当たって涼んでから服を着ているので、本当に他に意味はないらしい。
「五歳上です」
「うわ、それ、ちょうど良い歳やん」
「……何がちょうどなんですか?」
「え、上すぎず近すぎず。なんでそうなったん?」
既に何度もしているので面倒だったけれど、輝生とルームシェアすることになった経緯を柚月は最初から説明した。祖母が〝ヒカルくん〟と言っていれば、きっとその場で拒否していた。
「ふぅん……男と住んでんかぁ……」
柚月を狙っていた男性は、やはりその事実で気持ちが変わってしまったらしい。仕事の話はきちんとしてくれるけれど、プライベートの話は全くしなくなった。やはり好きな男性には付き合う前に伝えるべきか、と改めて考えてしまう。
「あっ、でもさぁ、ルームシェアしてるだけで、別にやらしいことないんやろ?」
「ないです。むしろ優しいです」
だから柚月は、輝生と恋人だっただろうか、と疑ってしまうこともあるけれど、それは本当にない。彼が何をしていても特に気にならないし、柚月の帰りが遅くなっても理由を聞いてこない。二人でお酒を飲むこともあるけれど、酔って輝生の態度が変わることもない。祖母が言っていた通り、彼は本当に気が利く人らしい。
「それやったら、別に特に問題ないんやなぁ? どうやって北原さんに振り向いてもらおかなぁ」
「ははは……。この会社にいる限り無理ですよ」
「ああ、そうか……辞めなあかんのかぁ」
それは無理だからやはり柚月とはダメなのか、と男性は呟いて仕事を続けていた。
柚月はいま恋人がほしくない、と言うと嘘になってしまう。
仕事に専念しているけれど、本当は休日に一緒に過ごせる相手が欲しい。
だから職場の男性たちに声をかけられるのは嬉しかったけれど、社内恋愛したくないのも本当だった。外見も正確も悪くないので違う職業なら付き合うことも考えてみるけれど、いま辞めるわけにはいかないのでやはり振り出しに戻る。
輝生は〝無益な付き合いはしない〟と言っていたけれど、柚月にはそんな考えはない。だから合コンの話があれば声をかけてほしい、と大学時代の友人たちに頼んでいた。
「ん? 柚月──出かけるのか?」
休日の夕方にお洒落をしてリビングに下りると、早番の輝生が帰宅したところだった。
「うん。もしかしたら遅くなるから、先に寝てて」
「いや──、さすがに放置して寝れねぇわ」
「良いのに別に……」
「それならなるべく早く帰れ」
「……努力します」
柚月が出かける先は、念願の合コンだ。
友人が職場の独身男性から話をもらったようで、柚月も呼んでもらえた。職業は全員が違うけれど、年齢は全員が二歳ほど上らしい。
久々に電車に乗って十分ほど揺られ、集合場所に着いた。週末なので買い物している人が多く、柚月も買い物したかったけれど、それよりも合コン相手の男性陣がどんな人たちか気になって仕方がない。
「カンパーイ!」
チェーンの居酒屋の一室で、八人で乾杯した。順番に簡単な自己紹介をして、趣味や好きなものの話をして盛り上がっていた。
同年代の男性と話をするのは久しぶりだった。同期に同年齢はいるけれど開発希望だったので違う職場になっているし、同じ事務所にいる男性は、若くても二十代の後半だった。一緒に暮らしている輝生も五歳上なので、あまり話が合わなかった。
「みんな、LINE教えて!」
合コンの終盤になった頃に全員と連絡先を交換して、揃って店を出た。男性の一人がスマホを見ながら、二次会どうですか、と店を探していた。
「カラオケ行く? それか、ボーリングとか?」
「いや、今日は解散しよ。俺も二次会行きたいけど、個人的に連絡したい子いるし……」
「お? 誰?」
二次会に体が向いているけれど我慢して帰ろうとしているのは幹事だ。
「言うかっ。……いま九時。俺、地下鉄で帰るけど」
私も地下鉄で帰りまーす、と幹事についていく女性たちと、俺は遊んで帰ろうかな、と商店街の中へ消えていく男性たち。
「えーっと……柚月ちゃんは?」
「私も帰るけど、JRやから……」
幹事たちに手を振って、柚月は一人で駅に向かった。
電車に乗ってから幹事にLINEを送ったけれど、その日は既読がついただけで返事はなかった。
フラれたときは悲しかったけれど、仕事ができるようになったので感謝もしていた。輝生とも──もちろん恋愛関係ではないけれど──特に気にせず話ができるようになってきたし、彼も気にせずだらしない格好でいることが増えた。
直幹にフラれたことと理由を、大学時代の友人たちには教えた。だから気をつけるように言ったのに、と言われたけれど、半分は聞き流した。今更どうすることもできないし、初めは不満だった輝生との暮らしも満足ではないけれど受け入れてしまっていた。文句を言われることはあるけれど、彼を嫌いにはなれなかった。
「北原さんてさぁ、家近くって言ってたよなぁ?」
聞いてきたのは、以前に柚月に近づこうとしてきた男性だ。柚月は断ったけれど、彼はいまだに諦めずに柚月にアピールを続けている。
「はい。五分くらいのとこです」
「良いなぁ。羨ましいわ……。いや、待って、五分くらいのとこにマンションある? 一人暮らしやろ?」
「……実家は出たけど、一人ではないです」
言っている意味がわからなかったようで、彼はまばたきをしながら柚月を見ていた。
「北原さん、ルームシェアしてるんやって」
助けてくれるのは、いつも先輩だ。
「あ、なるほど。相手どんな子なん?」
彼はきっと、女性だと信じて聞いているけれど。
先輩も〝どう答える?〟という顔で柚月を見ていたけれど。
「相手──男の人です。年上の」
柚月が本当のことを言うと、話を聞いていた全員が驚いて振り返ってしまった。先輩と一部の同期は、知っていたので特に表情を変えなかった。
「男とルームシェアしてんの?」
「それ──、ヤバない? 何歳?」
輝生が柚月に手を出してきそうな気配は、今のところ本当にない。暑いから、と言って上半身裸のこともあって柚月は服を着るようにお願いするけれど、輝生は面倒くさそうにしてから柚月から離れていく。風に当たって涼んでから服を着ているので、本当に他に意味はないらしい。
「五歳上です」
「うわ、それ、ちょうど良い歳やん」
「……何がちょうどなんですか?」
「え、上すぎず近すぎず。なんでそうなったん?」
既に何度もしているので面倒だったけれど、輝生とルームシェアすることになった経緯を柚月は最初から説明した。祖母が〝ヒカルくん〟と言っていれば、きっとその場で拒否していた。
「ふぅん……男と住んでんかぁ……」
柚月を狙っていた男性は、やはりその事実で気持ちが変わってしまったらしい。仕事の話はきちんとしてくれるけれど、プライベートの話は全くしなくなった。やはり好きな男性には付き合う前に伝えるべきか、と改めて考えてしまう。
「あっ、でもさぁ、ルームシェアしてるだけで、別にやらしいことないんやろ?」
「ないです。むしろ優しいです」
だから柚月は、輝生と恋人だっただろうか、と疑ってしまうこともあるけれど、それは本当にない。彼が何をしていても特に気にならないし、柚月の帰りが遅くなっても理由を聞いてこない。二人でお酒を飲むこともあるけれど、酔って輝生の態度が変わることもない。祖母が言っていた通り、彼は本当に気が利く人らしい。
「それやったら、別に特に問題ないんやなぁ? どうやって北原さんに振り向いてもらおかなぁ」
「ははは……。この会社にいる限り無理ですよ」
「ああ、そうか……辞めなあかんのかぁ」
それは無理だからやはり柚月とはダメなのか、と男性は呟いて仕事を続けていた。
柚月はいま恋人がほしくない、と言うと嘘になってしまう。
仕事に専念しているけれど、本当は休日に一緒に過ごせる相手が欲しい。
だから職場の男性たちに声をかけられるのは嬉しかったけれど、社内恋愛したくないのも本当だった。外見も正確も悪くないので違う職業なら付き合うことも考えてみるけれど、いま辞めるわけにはいかないのでやはり振り出しに戻る。
輝生は〝無益な付き合いはしない〟と言っていたけれど、柚月にはそんな考えはない。だから合コンの話があれば声をかけてほしい、と大学時代の友人たちに頼んでいた。
「ん? 柚月──出かけるのか?」
休日の夕方にお洒落をしてリビングに下りると、早番の輝生が帰宅したところだった。
「うん。もしかしたら遅くなるから、先に寝てて」
「いや──、さすがに放置して寝れねぇわ」
「良いのに別に……」
「それならなるべく早く帰れ」
「……努力します」
柚月が出かける先は、念願の合コンだ。
友人が職場の独身男性から話をもらったようで、柚月も呼んでもらえた。職業は全員が違うけれど、年齢は全員が二歳ほど上らしい。
久々に電車に乗って十分ほど揺られ、集合場所に着いた。週末なので買い物している人が多く、柚月も買い物したかったけれど、それよりも合コン相手の男性陣がどんな人たちか気になって仕方がない。
「カンパーイ!」
チェーンの居酒屋の一室で、八人で乾杯した。順番に簡単な自己紹介をして、趣味や好きなものの話をして盛り上がっていた。
同年代の男性と話をするのは久しぶりだった。同期に同年齢はいるけれど開発希望だったので違う職場になっているし、同じ事務所にいる男性は、若くても二十代の後半だった。一緒に暮らしている輝生も五歳上なので、あまり話が合わなかった。
「みんな、LINE教えて!」
合コンの終盤になった頃に全員と連絡先を交換して、揃って店を出た。男性の一人がスマホを見ながら、二次会どうですか、と店を探していた。
「カラオケ行く? それか、ボーリングとか?」
「いや、今日は解散しよ。俺も二次会行きたいけど、個人的に連絡したい子いるし……」
「お? 誰?」
二次会に体が向いているけれど我慢して帰ろうとしているのは幹事だ。
「言うかっ。……いま九時。俺、地下鉄で帰るけど」
私も地下鉄で帰りまーす、と幹事についていく女性たちと、俺は遊んで帰ろうかな、と商店街の中へ消えていく男性たち。
「えーっと……柚月ちゃんは?」
「私も帰るけど、JRやから……」
幹事たちに手を振って、柚月は一人で駅に向かった。
電車に乗ってから幹事にLINEを送ったけれど、その日は既読がついただけで返事はなかった。



