彼らの夏が終わる

「ありがとうございました!」


 選手五人と、その後ろでメイサと愛香(まなか)灰田(はいだ)も頭を下げた。

 全員が頭を上げると、相手の主将が一輝(かずき)へ静かに手を差し出した。


「……すまなかった」


 一輝が答えられずにいると、相手はわずかに表情を曇らせた。


「君たちが、予想以上に強くて、手段を選べなかった」


 一輝は何度か瞬きをしてから差し出された手を取った。分厚くて硬い手だった。


「いや……俺たちは最初から取れる手段なんかなかったから。普通に、そっちが強かった。それだけだ」


 相手は顔をくしゃりと歪ませると、仲間の選手たちに肩を叩かれ、慰められていた。

 一輝は手を離すと、小さく息をついてベンチへ戻った。


「……俺の筋肉が足りてないから」


 ベンチに座り込むなり、藤也(とうや)が呟いた。海斗(かいと)(しょう)が吹き出す。


「他にもあんだろ。俺の足が遅いとか」

「俺の視野が狭いとか」


 三人の間に、重たい沈黙が落ちた。

 開け放たれた窓の外ではセミがけたたましく鳴き、その声だけがやけに大きく体育館へ響いていた。


「とりま、帰ろう」


 メイサは淡々と荷物をまとめ始めた。

 ベンチに座り込んだままだった大雅(たいが)が、ぼんやりと顔を上げた。


「そうだね。あの、立てないから、慰めて」


 メイサはじろりと大雅を見て、その正面に立つと、頭へタオルをふわりとかけた。


「おつかれさま。よく頑張りました」

「泣きそう」

「泣いてていいから着替えて、片付けて。ここに座り込んでると迷惑になる」

「うん……」


 大雅はタオルで顔を隠したまま立ち上がり、ゆっくりと着替え始めた。

 愛香はビデオカメラをしまい、ドリンクを鞄へ詰めていった。片付けを終えて立ち上がろうとすると、着替えを終えた一輝が手を差し出した。


「持つ」

「え、いいよ。疲れてるでしょ」

「そんな細い腕じゃ、持たせられねえだろ」

「大丈夫。灰田先生が持つから」

「はいはい、持ちますよ」


 灰田は笑いながら荷物を持ち上げ、車へ運んだ。一輝と着替えを終えた大雅も黙ってその後に続く。

 灰田がトランクを閉め、部員たちを見回した。


「みんな、おつかれさまでした」


 返事をする者はいなかった。

 灰田は目を細める。


「今後のことは明日以降に話そう。今日は帰って、ゆっくり休むといい。三枝(さえぐさ)さんと須藤(すどう)くんも、忙しい中助っ人をありがとう。三枝さんの活躍については、サッカー部の顧問の先生と担任の先生に伝えて、内申でもきちんと評価してもらえるようお願いしておくよ」

「……ありがとうございます」

「須藤くんについても、園芸部の顧問……教頭先生に、しっかり伝えておくから」

「いえ、俺は……結局、肝心なときに役に立てなくて」

「そんなことはない。君がいなければ、僕たちはこのコートに立つことすらできなかったんだから」


 藤也は俯いたまま、唇を噛み締めた。

黒杉(くろすぎ)白石(しらいし)赤江(あかえ)もお疲れさまでした。本当に素晴らしい活躍だった。青川(あおかわ)茶野(ちゃの)は今日はゆっくり休んで、明日からまた頑張ろう。俺たちの戦いは、これからだから」

「打ち切られてるじゃないですか」


 海斗が呆れた顔を灰田に向けた。


「誌面で終わったからといって、僕らの人生まで終わるわけじゃない。同人誌で続くことだってある」

「なんすかそれ、もう。漫画読みすぎッスよ」


 翔も顔を上げて苦笑した。


「言っただろう。僕はジャンプが大好きなんだ。友情、努力、勝利。今回つかめなかった勝利をつかむまで、努力を止めないでほしい。それを支えるのが、僕の役目だ」


 灰田はにこりと微笑み、車へ乗り込んだ。

 車が去ってから、愛香はメイサに顔を向ける。


「メイちゃん、愚痴らせて。須藤くん、メイちゃん貸して」

「どうぞ。俺は学校に顔を出さないと」

「あ、俺も行く」


 翔が藤也を見た。


(やなぎ)が、どうなったか聞きたがってたから」

「そうなん。じゃ、一緒に行こう。海斗は?」

「俺はあっちで姉が睨んでるから荷物持ちしてくる」


 海斗は顔をしかめながら、校門脇に立つ女性を指さした。


「ウケる。じゃあ、また」

「ウケねえよ。また」


 海斗を見送り、一輝と大雅は顔を見合わせた。


「俺らも学校行くか」


 一輝が言うと、大雅が頷いた。


「そうだな」


 全員でなんとなく顔を見合わせると、それぞれ帰るべき場所へ歩き出した。

***