彼らの夏が終わる

 その日、期末試験の返却が全て終わった。

 メイサが結果を手に教室で待っていると、藤也(とうや)がやってきて前の席に横向きに腰掛けた。


「どうだった?」

「ばっちり」


 返ってきた試験結果と順位表を藤也に渡す。

 受け取った藤也は満足そうに頷いた。


「よかった。この成績なら推薦もらえるだろ」

「ね! ありがとう、藤也」

「メイサが頑張った結果だろ」


 藤也は試験結果を返し、そのまま空いた手でメイサの髪を撫でた。

 メイサはニコニコしながら弁当を取り出す。

 藤也も弁当を取り出し、二人で窓から吹き込む風を感じながら、のんびりと昼食を楽しんだ。

 窓から吹き込む風に白いカーテンがゆるやかに揺れ、夏の陽射しが教室に差し込んでいた。


「藤也は今日は最初からバスケ部にいる?」

「うん。園芸部は草野(くさの)先輩と副部長に任せたから」

「任されてるよ」


 メイサの斜め後ろで友人と弁当を食べていた草野が振り返った。


「あれ、いたんだ?」

「最初っからいるっつうの。いちゃつきやがって」


 草野は顔をしかめると、友人たちの方へ向き直った。

 藤也は笑って「すんません、頼りにしてます」と言って、草野に軽く頭を下げた。

 草野は振り返ることなく、左手だけをひらひらと振った。

 メイサはそれを見て肩をすくめた。


「まなちゃん、絶対黒杉(くろすぎ)より草野の方が幸せになれるよ」

「そういうこと言うな!」


 草野が勢いよく振り返った。


「まじでデリカシーのない女だな」

「褒めたんじゃん」

「嬉しくねえから!」

「メイサ、草野先輩と仲いいの何なの。やめてくれる?」

須藤(すどう)の目は節穴かよ」


 草野は弁当箱の蓋を閉めて立ち上がった。一緒に食べていた友人らも立ち上がり、それぞれの部活に向かう。


「じゃあ、俺は部活行くから、須藤も頑張れ。そんでさっさと負けて俺を引退させてくれ」

「そんな簡単に負けさせませんー」


 メイサが口を挟むと、草野は苦笑した。


「俺としては勝ち負けなんかどうでもいいんだ。俺を引退させてくれ」

「部長がいなくなると寂しいじゃないですか!」

「部長はお前だ。明日の夏休み前の部長会議はお前が出るんだよ」

「それは出ますけど」

「よろしく頼むよ、新部長」


 そう言って、草野は今度こそ教室を出ていった。

 メイサは弁当の蓋を閉めて、カバンに放り込む。


「やっぱり。まなちゃんは黒杉より草野とくっついたほうが幸せになれるよ」

「わからんではない。でも赤江(あかえ)先輩は草野先輩に興味なさそうだし」

「ねえ、絶対に草野のほうがいいのにね」

「草野先輩推すじゃん」


 藤也がわずかに唇を尖らせた。

 メイサは笑顔でスマホを取り出す。


「この前、藤也が一年のときの写真くれたから」

「買収されてんなよ……」


 藤也が立ち上がり、メイサも続く。

 廊下の窓もすべて開け放たれ、夏の蒸し暑い風が廊下をゆっくりと吹き抜けていた。

 校庭からは生徒たちのはしゃぐ声が響き、校舎裏のビオトープではセミがわんわんと鳴いていた。


「ところで、部長会にバスケ部は誰が行くんだ? 海斗?」

「あとで話すけど、部長と副部長、両方参加しないといけないから、二人で出させるよ」

「他に部員いねえのに」

「追加の見込みがある」

「あ、そうなん? 誰?」

「企業秘密」

「またそれ」


 藤也は特に気にした様子もなかった。

 メイサも藤也も助っ人にすぎない。これから先のことを考え、決めていくのは、あの五人なのだ。

***