彼らの夏が終わる

 放課後、一輝は大雅と共に図書室に向かっていた。愛香から、


『メイちゃんたちと勉強してるから、二人もおいで』


 と連絡が来たのだ。

 一輝は授業以外で図書室を利用することはないが、メイサはよく通っており、愛香も時々利用しているらしい。

 意外に思いながら図書室を覗くと、試験前の賑やか空気の中、愛香とメイサが並んで机に向かい、その向かいの席では藤也(とうや)が二人に勉強を教えていた。


「おつかれ。なんで二年に教わってるんだよ」

「そういうことは須藤(すどう)くんに教わってから言いなよ」

「そうだそうだ。私よりバカのくせに」


 愛香とメイサに同時に言い返され、一輝は言葉に詰まった。

 大雅が苦笑しながら藤也の隣に腰を下ろしたので、一輝も愛香の隣の椅子を引いた。

 藤也は顔を上げることもなく、メイサの教科書をめくった。


「で、さっきまで説明してたのがこの式」

「……あ、なるほど? じゃあ、答えは、」

「そういうこと」

「えっと、こっちは?」

「それは応用。文章をちゃんと読め。数学じゃなくて国語の話だから」


 メイサは教科書へ目を落とした。窓から差し込む午後の光を受け、長いまつげが頬に淡い影を落とす。

 一輝は大雅が藤也の隣に座った理由に気がついた。


「……愛香、ここなんだけど」

「私にもわかんない」

「ダメじゃん」

「須藤くんわかる?」


 愛香が顔を上げると、藤也が一輝の教科書を見た。


「それ、二ページ前に解説ありますよ」

「なんで分かるんだよ」

「黒杉先輩は、なんで二年生にもわかることがわかんないんですか?」

「ぐ、悪かった」

「いえ、どっちかと言うと先輩の感想のほうが正しいので、大丈夫です」


 藤也は呆れたような顔でメイサを見ていた。その視線にあるのは呆れだけではないことくらい、一輝にも分かった。

 一輝は小さく息を吐いて、勉強を続けた。

 しばらくして、メイサが両腕をぐっと伸ばした。


「あー疲れた」

「お疲れ。進んだ?」

「だいぶ。藤也は? ごめんね大人数で世話になって」


 メイサは愛香と一輝、大雅へ顔を向けた。結局、バスケ部の三人も分からないところを次々と藤也に教わっていた。


「本当だよ。なんだよ、三年生が四人もいて。次から助っ人呼ぶか」

「誰?」

草野(くさの)先輩か、(ひいらぎ)先輩か」

「柊ちゃん呼ぶと一ノ瀬(いちのせ)もきてうるさいからなあ。草野はいいかも」

「やだよ、あいつ気障だから」


 一輝が口を挟むと、大雅は思わず吹き出した。


「愛香にちょっかいかけられるもんな」

「草野くん、そんなことしないよ」

「草野部長となんかあったんですか?」


 藤也が首を傾げると一輝は顔をしかめた。


「何にもない。断じて何にもない」


 それを聞いて大雅はますます笑った。

 一輝はムスッとしたまま勉強を再開した。

***