彼らの夏が終わる

 翌朝、一輝が朝食を食べていると、玄関の呼び鈴が鳴った。

 母親が出て、「愛香ちゃんと大雅くん来たよ」と呼ばれる。

 一輝が玄関へ出ると、愛香と大雅はなぜか楽しそうな笑顔で手を振った。


「いや、何しに来たんだよ」


 二人を部屋へ案内し、座卓へ水滴のついたコップを二つ並べた。


「一輝が凹んでるって聞いたからいじりにきた」

「私は二人に勉強させにきた」

「なんだそれ」


 一輝は苦笑して勉強机の椅子に腰を下ろす。

 愛香が真顔になった。


「二人は、大学はどこにするの?」


 一輝と大雅は、気まずそうに顔を見合わせた。


「さすがに決めないとダメだよ」


 一輝は膝の上で拳を握りしめ、愛香をまっすぐ見た。


「……愛香が行きたいって言ってたとこ、俺でも行けるかな」

「今のままじゃ無理だよ」


 愛香は即答する。当然だ。一輝にもわかっている。

 しかし、一輝がもう一度口を開くより早く、愛香はふっと笑った。


「二人とも、頑張って勉強して。ちゃんと付き合うから」

「よろしくお願いします」


 一輝が頭を下げると、大雅が目を丸くして一輝と愛香を見る。


「え、今、俺も含めた?」

「ったりまえだろ。俺一人で勉強するわけねえじゃねえか」

「私が付き合わないで、大雅は進学できる?」


 好き勝手なことを言う二人を前に、大雅は天井を見上げた。


「俺、お邪魔じゃない?」

「んなこと、思ったことねえよ」

「それなら、今日誘わなかった」


 大雅が天井を見上げて唸っている間に、一輝は教科書を取り出し、愛香も座卓へ参考書を広げた。


「もしかして、二人とも俺のこと結構好き?」

「まあ、最低限は」


 低い声で言う大雅に、一輝は顔も上げずに答えた。


「最低限てなんだよ」


 大雅は笑って背中を丸めた。


「……俺にも、勉強教えてください」

「いいよ」


 愛香の笑顔をちらりと見やり、一輝は再び教科書へ視線を落とした。