一輝は通話を終えると、メイサから送られてきていた練習メニューを開いた。
体を起こし、手首を伸ばそうとして、ふと動きを止めた。
一輝はLINEの履歴を開き、上から三番目の名前をタップした。
『なあに』
愛香はすぐに出た。
「ビデオ通話にしていい?」
『いいよ』
ほどなくして、スマホの画面に愛香の顔が映った。
「三枝が送ってきたストレッチやるから、繋げといて」
『はいはい。私は試験勉強してるからね』
愛香に頼むことは、一輝が思っていたより、ずっと簡単だった。
スマホの向こうでは、愛香が机へ向かってうつむいている。時折、シャーペンを走らせる手やノートの端が画面に映り込んだ。
一輝も床へ座り、スマホをテーブルへ立てかけてストレッチを始めた。腰へ負担をかけないよう、手首や足首を回し、腕や背中をゆっくりと伸ばしていく。
いつもより丁寧に体を伸ばしていると、じんわりと汗がにじんできた。
一通り終わってスマホを見ると、愛香が一輝を見ていた。
「愛香、試験勉強は進んだ?」
『ちょっと。一輝も勉強したほうがいいよ』
「そりゃそうだ」
一輝はスマホを手に立ち上がり、勉強机へ立てかけた。
カバンから教科書とノートを取り出しながら、一輝は先ほどの藤也とメイサのやり取りを思い返した。確かに、愛香と二人でビデオ通話をしている最中に誰かから電話がかかってきたら、あまり気分のいいものではない。許せる相手がいるとすれば、大雅くらいだった。
「あのさ、数学の範囲なんだけど」
『ざっくり言って、教科書半分』
「ざっくりすぎる。え、マジ? そんなにある?」
愛香と話しながら教科書をめくり、ノートを開いた。
一時間ほど勉強を続けたあと、一輝はふと顔を上げた。
「愛香」
『んー』
「ありがと」
ノートへ視線を落とし、ペンを走らせていた愛香が、目を丸くして顔を上げた。
『どしたの。熱ある? 腰痛いなら、横になったほうがいいよ。辛ければ行くけど』
愛香に矢継ぎ早に心配され、一輝は思わず苦笑した。
熱はない。
体調が悪いわけでもない。
そうではなく、胸の奥が火照るようなこの気持ちは、スマホ越しに説明できるものではなかった。
「熱はない。腰もちょっと痛いけど大丈夫。そうじゃなくて……んー、うん。やっぱ熱あるかも」
『行こうか?』
「そういう意味じゃねえから、大丈夫。でも今日はもう寝るわ」
『そうしなよ。明日は日曜日だし、ゆっくり休んで』
「サンキュ。おやすみ」
『おやすみ』
そこで通話は途切れた。
一輝は緩む口元を手で覆った。机の上にはノートもシャーペンも出したままだったが、そのまま部屋の明かりを消し、ベッドへ倒れ込んだ。
午後はほとんど寝ていたはずなのに、あっという間に眠りに落ちた。
***
体を起こし、手首を伸ばそうとして、ふと動きを止めた。
一輝はLINEの履歴を開き、上から三番目の名前をタップした。
『なあに』
愛香はすぐに出た。
「ビデオ通話にしていい?」
『いいよ』
ほどなくして、スマホの画面に愛香の顔が映った。
「三枝が送ってきたストレッチやるから、繋げといて」
『はいはい。私は試験勉強してるからね』
愛香に頼むことは、一輝が思っていたより、ずっと簡単だった。
スマホの向こうでは、愛香が机へ向かってうつむいている。時折、シャーペンを走らせる手やノートの端が画面に映り込んだ。
一輝も床へ座り、スマホをテーブルへ立てかけてストレッチを始めた。腰へ負担をかけないよう、手首や足首を回し、腕や背中をゆっくりと伸ばしていく。
いつもより丁寧に体を伸ばしていると、じんわりと汗がにじんできた。
一通り終わってスマホを見ると、愛香が一輝を見ていた。
「愛香、試験勉強は進んだ?」
『ちょっと。一輝も勉強したほうがいいよ』
「そりゃそうだ」
一輝はスマホを手に立ち上がり、勉強机へ立てかけた。
カバンから教科書とノートを取り出しながら、一輝は先ほどの藤也とメイサのやり取りを思い返した。確かに、愛香と二人でビデオ通話をしている最中に誰かから電話がかかってきたら、あまり気分のいいものではない。許せる相手がいるとすれば、大雅くらいだった。
「あのさ、数学の範囲なんだけど」
『ざっくり言って、教科書半分』
「ざっくりすぎる。え、マジ? そんなにある?」
愛香と話しながら教科書をめくり、ノートを開いた。
一時間ほど勉強を続けたあと、一輝はふと顔を上げた。
「愛香」
『んー』
「ありがと」
ノートへ視線を落とし、ペンを走らせていた愛香が、目を丸くして顔を上げた。
『どしたの。熱ある? 腰痛いなら、横になったほうがいいよ。辛ければ行くけど』
愛香に矢継ぎ早に心配され、一輝は思わず苦笑した。
熱はない。
体調が悪いわけでもない。
そうではなく、胸の奥が火照るようなこの気持ちは、スマホ越しに説明できるものではなかった。
「熱はない。腰もちょっと痛いけど大丈夫。そうじゃなくて……んー、うん。やっぱ熱あるかも」
『行こうか?』
「そういう意味じゃねえから、大丈夫。でも今日はもう寝るわ」
『そうしなよ。明日は日曜日だし、ゆっくり休んで』
「サンキュ。おやすみ」
『おやすみ』
そこで通話は途切れた。
一輝は緩む口元を手で覆った。机の上にはノートもシャーペンも出したままだったが、そのまま部屋の明かりを消し、ベッドへ倒れ込んだ。
午後はほとんど寝ていたはずなのに、あっという間に眠りに落ちた。
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