彼らの夏が終わる

 帰宅した一輝(かずき)は、疲れ切ったようにベッドへ倒れ込んだ。

 かろうじてスマホを持ち上げ、バスケ部のグループトークに、


『二週間運動禁止。ただし三枝(さえぐさ)が作った練習メニューは医者から許可が出た』


 と送信すると、そのまま画面を閉じた。目を閉じた途端、張りつめていた意識はあっという間に眠りへと沈んでいった。

 数時間後、一輝が目を覚ますと、窓の外はすっかり夜の闇に包まれていた。

 重い体を引きずるように起き上がり、開け放したままだったカーテンを閉めると、晩ごはんと風呂を済ませた。部屋へ戻ってスマホを手に取ると、バスケ部のグループトークには励ましのメッセージがいくつも届いていた。

 ひとつひとつ目を通し、一輝は小さく唸った。

 やがて再びベッドへ身を預けると、一輝はメイサの名前をタップした。

 ……が、メイサは通話には応じなかった。


「まあ、しゃあねえか」


 一輝が息を吐いて目を閉じかけたそのとき、スマホが震えた。画面にはメイサと藤也(とうや)の名前が並び、グループ通話の着信が表示されていた。


「……もしもし」


 通話に応じると、画面にはメイサと藤也の顔が映し出された。どうやらビデオ通話だったらしい。

 メイサはすっぴんのまま現れ、藤也はやけにごつい眼鏡をかけていた。

 部活で見る姿とはあまりにも雰囲気が違い、一輝は思わず言葉に詰まった。


『なに?』


 メイサはいつもより低い声で、一輝に視線を向けていた。


「は? なにって」

『用事があるから電話してきたんじゃないの? 今、ダーリンといちゃついてるから手短に言って。三文字くらい』

「短え」

『一文字超えたから終わり』

「待て待て、謝りたいんだって!」


 一輝は慌てて声を上げた。画面の向こうでは、メイサは無表情のままこちらを見つめ、藤也はうつむいていた。しかし肩が小刻みに震えており、どうやら笑いをこらえているらしかった。


「二人にめちゃくちゃ助けられたのに、酷いこと言ったから、その、ごめん」


 一気に言い切ると、藤也が顔を上げた。


『はは、ふふ、いいけどさ、あはは』

『ちょっと藤也、笑いすぎ』

『メイサがこんな怒ってるの珍しいから』

『邪魔されたから』

『しかもそこかよ。まあ、俺としても、ハニーの部屋着見られて面白くないんだけど』

「別に見てもなんとも思わねえよ。修学旅行で見てるし」


 藤也は目をきゅっと細め、メイサへ視線を向けた。

 メイサは『それはそう』と、あっさり頷いた。


『あ、でも修学旅行はまなちゃんたちとお揃いのルームウェア着たんだよ。藤也、あとで送るね』

「ふざけんな、三枝だけの写真にしろよ」


 一輝が思わず口を挟むと、メイサはにやりと笑った。


『まなちゃんと撮った写真もあるよ』

「それはくれ」

『いや、黒杉(くろすぎ)先輩、普通に赤江(あかえ)先輩に見せてくれって言えばいいじゃないですか』

「さすがに寝間着着てこいとは言えねえよ」

『自分が見に行くって選択肢は?』

「……無理」

『声小っさ!』

「うっせえよ。あー、とにかく、あれだ。俺が悪かったです。ごめんなさい……」


 画面越しに、メイサと藤也は顔を見合わせた。


『まあいいけど、ダーリンが嫉妬するし、いちゃいちゃするのに邪魔だから電話してこないで』

『俺も別にいいけど、俺の彼女に個別に電話しないで。試験前だし』

「……うん。二度としない。二人ともごめん。あ、三枝は休み中の練習メニュー、サンキュ。医者が褒めてた」

『ああ、あれ。いいよ。あそこに書いてある以上でも以下でもダメだからね』

「わかった。じゃあ二人とも、おやすみ」