彼らの夏が終わる

 会計を済ませた母親が戻ってきた。


「どうする? 帰る?」

「私は学校に戻ります。自転車取ってこないと」

「俺も自転車置きっぱなしだ」


「一輝は乗れないでしょ。それなら学校に向かいましょうか。一輝の自転車は車に乗せて……あと顧問の先生にご挨拶して」

「いるか、それ」

「いります」


 母親にきっぱりと言われ、一輝は首を傾げながらも、おとなしく後についていった。

 学校へ戻ると、愛香は足早に体育館へ向かっていった。

 一輝は母親と共に職員室を訪れた。


「三枝さんから話は聞いてる。こんにちは。バスケ部の顧問をやっている、灰田と申します。こちらへどうぞ」


 灰田は立ち上がり、一輝と母親を職員室の隅にある応接スペースへ案内した。

 灰田は病院での話を静かに聞き終えると、小さく頷いた。


「ちょうどいいんじゃない。勉強しな」

「……はい」

「せっかくだし、担任の先生も呼んで、三者……いや、四者面談にする?」

「やめときます。あの、三枝から話を聞いてるって」

「うん。黒杉くんが三枝さんと須藤くんに言ったことも、全部聞いてる」


 一輝は手を握りしめた。母親が不思議そうな顔で、一輝と灰田の顔を見比べる。


「あの、息子がなにか」

「多少揉めたようですが、相手の生徒は話を大きくすることを望みませんでした。受験生ですしね」

「そう……ですか」


 母親が困ったように口を閉ざす姿を見て、一輝はますます拳を強く握りしめた。

 灰田は相変わらず穏やかな表情を一輝に向けていた。


「三枝に謝ってきます」

「それがいい。でも、今日はお母様も待たせてるし、月曜日でいいんじゃない」

「……はい」


 その後も母親と灰田が話す傍らで、一輝はうなだれたまま黙っていた。

 やがて話が終わり、母親が立ち上がる。

 一輝もゆっくり立ち上がり、母親と共に職員室を出た。


「黒杉」


 灰田に呼び止められた。


「……はい」

「次、どうする?」

「次?」

「そう、次だ。それを考え続けるのが人生だよ」


 一輝は答えられず、何度か瞬きを繰り返した。

 灰田は柔らかく微笑みながら、一輝を見つめていた。


「灰田先生って……ちゃんと先生だったんすね」

「こら! 一輝! すみません、先生、失礼なことを」

「いえ、お気になさらず。さっき、三枝さんにも同じことを言われた。きみは気づけた。じゃあ次だ。次をどうするか考えなさい。僕からの宿題だ」


 一輝は灰田へ深く頭を下げ、母親と共に学校を後にした。