彼らの夏が終わる

 電気治療を終えた一輝は、母親と共に再び医者の前へ腰を下ろした。

 今後の治療方針を聞き終えると、一輝は先ほどメイサから送られてきた練習メニューを医者へ見せた。


「あの、直るまで、これってやっても大丈夫ですか?」

「へえ? ああ、はは、これもわたしが前に作ったメニューだな。バスケ用に多少手は入ってるね。ああ、三枝さんか」

「知ってるんですか」

「うん。サッカー部の子をたまに連れてくるからね。そのときによく話すよ。熱心な子だね」


 一輝は喉の奥が詰まるような感覚を覚えた。

 医者はちらりと一輝の顔を見て、すぐにカルテへ視線を落とした。


「それでいいよ。ただ、回数だけは最初は半分から始めようって、三枝さんに伝えておいて」

「……わかりました。ありがとうございます」


 立ち上がった一輝に、医者は穏やかな笑顔を向けた。


「高校三年生ってさ、卒業っていう終わりは見えてるのに、その先が見えなくて怖いよね。でも、別にそこでぶつんと切れるわけでも、変わるわけでもない。普通に朝起きて、夜になったら風呂に入って寝る。そういう一日の流れは変わらない。大丈夫、君はまだ、若いから」


 一輝は再び手をぐっと握りしめると、ゆっくりと力を抜いた。そして深く頭を下げ、診察室を後にした。

 待合室で待っていた愛香は、一輝の姿を見つけると勢いよく立ち上がった。


「どうだった?」

「二週間はおとなしくしてろってさ。試験前だから、ちょうどよかった」

「そっか……」

「三枝の練習メニューは問題なし。回数だけ半分から始めろって三枝に伝えてくれってさ」

「わかった、伝える。……え、先生、メイちゃんのこと知ってるの?」

「そうみたい」


 一輝が先ほどの医者とのやり取りを話すと、愛香は「はー」と息を吐いた。


「メイちゃん、すごいな」

「なあ……俺、あいつのこと馬鹿なギャルだと思ってたし、そう言って須藤に切れられたけど、馬鹿は俺だった」

「当たり前じゃん」


 愛香が呆れたように笑った。