彼らの夏が終わる

 突然のことに藤也は一歩後ずさりし、メイサは何事もなかったように振り向いた。

 メイサの視線の先には戻ってきた愛香が目を丸くしている。


「あ、まなちゃん。こいつ、病院に連れて行って」

「一輝!? えっと、メイちゃんも、なに、どうしたの?」


 慌てて駆け寄った愛香は、メイサと一輝を見比べた。


「腰、痛めてたでしょ」

「なんで」


 よろよろと起き上がる一輝を前にしても、メイサは何事もなかったような顔をしていた。


「逆に、なんで気づかれないと思ってたの? 歩くたびに体が少し傾いてたよ。須藤、私のスマホ持ってきて」


 藤也から受け取ったスマホを、メイサは素早く操作した。


「まなちゃん、今、スポーツ専門の先生がいる病院の住所を送ったから」

「三枝先輩、手際いいですね?」


 藤也が恐る恐る聞くと、メイサは「当たり前でしょ」と腕を組んだ。


「私、二年半ずっと無茶ばっかりするサッカー部の連中に付き合ってきたんだよ」

「一輝、おばさん迎えに来るって。メイちゃん、ありがと。いきなり行って大丈夫かな」

「灰田先生に電話しておいてもらおう。私から説明しておくから」


 メイサは愛香と一輝が体育館を出ていく姿を見送り、小さく息をついてから振り返った。


「白石、ストレッチと筋トレ終わったらハンドリングしといて」

「あいよ。……えっと」


 大雅が片手を上げて、何かを言いかけた。

 メイサはつかつかと大雅の前まで歩み寄った。


「副部長、あとはよろしく。……って言っても、私も灰田先生に事情を説明したら戻るから。須藤は白石の指示に従って」

「了解、三枝先輩」

「しゃんとしな、副部長」


 メイサはまっすぐ大雅を見上げた。


「……了解、マネージャー」


 大雅はごくりと唾を飲み込み、一瞬うつむいた。だがすぐに笑顔を作って振り返る。


「うっし。それじゃ、コーンも並べたし、ハンドリングしようぜ。ボール取ってこよう」


 メイサは小さく頷くと、朝の光が差し込む体育館を後にした。