土曜日の朝。メイサが体育館に顔を出すと、一輝と大雅がボールを手にコートを駆け回っていた。
「相変わらず早いな。まなちゃんは?」
「二回戦の日程の確認しに、灰田のとこ行った」
「そっか。昨日の夜、部活禁止期間中のトレーニング内容送ったけど、わかんないとこある?」
メイサは舞台の隅へノートとボールペン、スマホを並べると、朝日が差し込む体育館を横切って倉庫へ向かった。
「わかんないとこはねえけどさ」
ボールを軽くつきながら、一輝がその後を追ってきた。
「あれっぽちの練習でいいわけ? 試合前なんだからさ」
「焦る気持ちはわかるけど」
「わかるわけねえだろ」
「じゃあ、突っかかってこないで」
メイサはすっぱりと言い切った。
そのとき、体育館の入り口から海斗と翔が姿を見せ、少し遅れて藤也も入ってきた。
水を飲んでいた大雅は険しい空気を感じ取ったのか、顔をしかめながら一輝とメイサの間へ割って入ろうとした。
「まあまあ、体動かしたかったら、駅向こうのバスケットコート行こうぜ」
「バスケットコート行ってたら意味ないでしょ」
メイサに睨まれて、大雅は両手を上げた。
メイサは真っすぐ一輝を見上げた。
「ボールを持つだけが練習じゃないよ。自分の体をきちんと使えるようにメンテナンスして、それをどんなときでも続ける。それがアスリートなんじゃないの」
「そうかもしれねえけど」
一輝の顔が苦しげにくしゃりと歪み、握ったボールへ力がこもった。
「片手間で偉そうにしてるだけのお前に、何がわかるんだよ」
メイサは呆れたように口を開きかけたが、その前に藤也が一輝の腕を強く引いた。
「ざっけんなよ!? お前、それ、マジで言ってるわけ!?」
「藤也、いいから」
「よくねえ、ふざけんな!」
藤也は一輝から手を離すと、舞台に置かれていたメイサのノートをつかみ、その場で勢いよく開いた。
ページには余白がほとんど見えないほど書き込みがびっしりと並んでいた。その光景に、一輝は思わず唇を噛んだ。
「これが片手間に見えるのかよ! 俺ら五人全員分の個別トレーニングメニューを考えてあるんだぞ!? それも毎週だ! 今まで練習試合をした相手のことも、これから当たるかもしれない相手のことも、全部びっしり書いてある。黒杉先輩がじっとしていられないからって、朝飯のメニューまで赤江先輩と相談してたんだぞ!」
大雅は目を見開き、思わずメイサへ視線を向けた。メイサは「ふん」と小さく鼻を鳴らしただけで、何も答えなかった。
「もし片手間だったとして! ここまで真剣に取り組んでもらって、何が不満なんだよ! 自分のつまんねー焦燥感、メイサに押しつけんな!」
藤也の怒声が消えると、体育館は水を打ったように静まり返った。
館内の半面で練習していたバレー部も手を止め、何事かとこちらの様子をうかがっていた。
メイサは小さくため息をつくと、バレー部へ「なんでもない」と声をかけた。
「黒杉、須藤、そこに正座」
「はい、三枝先輩」
藤也は素直にその場へ腰を下ろし、一輝も顔をくしゃりと歪めたまま、静かに正座した。
「白石、ポール並べて。青川、茶野、昨日の夜に送ったストレッチと筋トレ、全部順番にやって。わかんないとこがあったら、まなちゃん戻ったら聞いて」
「了解」
大雅は短く答えると、二年生の二人へ目配せした。
三人が動き出したのを見届けると、メイサも一輝と藤也の前へ静かに正座した。
「須藤、怒ってくれてありがとう。黒杉は、不調はちゃんと報告しな?」
一輝は視線を落としたまま、何も答えなかった。
藤也が不思議そうにメイサの顔を見る。
「どういうこと?」
メイサは何も答えずに立ち上がると、一輝の後ろへ回り込んだ。
一輝が焦ったように振り返ろうとした瞬間、ためらいなく一輝の腰を軽く叩いた。
「いったっ」
一輝は思わず前のめりに崩れ落ちた。
「相変わらず早いな。まなちゃんは?」
「二回戦の日程の確認しに、灰田のとこ行った」
「そっか。昨日の夜、部活禁止期間中のトレーニング内容送ったけど、わかんないとこある?」
メイサは舞台の隅へノートとボールペン、スマホを並べると、朝日が差し込む体育館を横切って倉庫へ向かった。
「わかんないとこはねえけどさ」
ボールを軽くつきながら、一輝がその後を追ってきた。
「あれっぽちの練習でいいわけ? 試合前なんだからさ」
「焦る気持ちはわかるけど」
「わかるわけねえだろ」
「じゃあ、突っかかってこないで」
メイサはすっぱりと言い切った。
そのとき、体育館の入り口から海斗と翔が姿を見せ、少し遅れて藤也も入ってきた。
水を飲んでいた大雅は険しい空気を感じ取ったのか、顔をしかめながら一輝とメイサの間へ割って入ろうとした。
「まあまあ、体動かしたかったら、駅向こうのバスケットコート行こうぜ」
「バスケットコート行ってたら意味ないでしょ」
メイサに睨まれて、大雅は両手を上げた。
メイサは真っすぐ一輝を見上げた。
「ボールを持つだけが練習じゃないよ。自分の体をきちんと使えるようにメンテナンスして、それをどんなときでも続ける。それがアスリートなんじゃないの」
「そうかもしれねえけど」
一輝の顔が苦しげにくしゃりと歪み、握ったボールへ力がこもった。
「片手間で偉そうにしてるだけのお前に、何がわかるんだよ」
メイサは呆れたように口を開きかけたが、その前に藤也が一輝の腕を強く引いた。
「ざっけんなよ!? お前、それ、マジで言ってるわけ!?」
「藤也、いいから」
「よくねえ、ふざけんな!」
藤也は一輝から手を離すと、舞台に置かれていたメイサのノートをつかみ、その場で勢いよく開いた。
ページには余白がほとんど見えないほど書き込みがびっしりと並んでいた。その光景に、一輝は思わず唇を噛んだ。
「これが片手間に見えるのかよ! 俺ら五人全員分の個別トレーニングメニューを考えてあるんだぞ!? それも毎週だ! 今まで練習試合をした相手のことも、これから当たるかもしれない相手のことも、全部びっしり書いてある。黒杉先輩がじっとしていられないからって、朝飯のメニューまで赤江先輩と相談してたんだぞ!」
大雅は目を見開き、思わずメイサへ視線を向けた。メイサは「ふん」と小さく鼻を鳴らしただけで、何も答えなかった。
「もし片手間だったとして! ここまで真剣に取り組んでもらって、何が不満なんだよ! 自分のつまんねー焦燥感、メイサに押しつけんな!」
藤也の怒声が消えると、体育館は水を打ったように静まり返った。
館内の半面で練習していたバレー部も手を止め、何事かとこちらの様子をうかがっていた。
メイサは小さくため息をつくと、バレー部へ「なんでもない」と声をかけた。
「黒杉、須藤、そこに正座」
「はい、三枝先輩」
藤也は素直にその場へ腰を下ろし、一輝も顔をくしゃりと歪めたまま、静かに正座した。
「白石、ポール並べて。青川、茶野、昨日の夜に送ったストレッチと筋トレ、全部順番にやって。わかんないとこがあったら、まなちゃん戻ったら聞いて」
「了解」
大雅は短く答えると、二年生の二人へ目配せした。
三人が動き出したのを見届けると、メイサも一輝と藤也の前へ静かに正座した。
「須藤、怒ってくれてありがとう。黒杉は、不調はちゃんと報告しな?」
一輝は視線を落としたまま、何も答えなかった。
藤也が不思議そうにメイサの顔を見る。
「どういうこと?」
メイサは何も答えずに立ち上がると、一輝の後ろへ回り込んだ。
一輝が焦ったように振り返ろうとした瞬間、ためらいなく一輝の腰を軽く叩いた。
「いったっ」
一輝は思わず前のめりに崩れ落ちた。



