彼らの夏が終わる

 翌朝、一輝が家を出ると、既に愛香の家に自転車がなかった。


「は?」


 慌てて学校へ向かうと、朝日が差し込む体育館で、大雅と愛香が並んで朝食をとっていた。


「何してんだ?」

「早起きさせられた。マジ眠い」


 大雅が不機嫌な声で答える。


「一輝の朝ごはんもあるよ」


 愛香が笑って、ランチトートからサンドイッチを取り出した。


「うちにあったものを適当に挟んだだけだから、『いただきます』と『ごちそうさま』をちゃんと言ってくれたら、それでいいよ」

「いや、なんで」

「北風と太陽」

「は?」


 愛香が呆れた顔で、自分の手元のサンドイッチを食べ始めた。


「押してダメなら引いてみろでも、なんでもいいんだけどね。一輝はダメって言っても止めないでしょ」


 じろっと睨まれて、一輝は目を逸らした。


「だったら、一緒にできるだけをやろうねって話」

「ちなみに三枝さんと須藤は来ねえから」

「あ、そうなん」


 一輝は肩の力を少し抜き、ようやく二人の前へ腰を下ろした。


「須藤は早朝は実家の店の開店準備してるってさ」

「まじで」


 愛香からランチトートを受け取ろうとした一輝の手が、途中でぴたりと止まった。


「あいつ、家のことと、園芸部の部長やって、学年一位の成績維持してバスケ部の手伝いもしてくれてた?」

「そうだよ」


 愛香がムスッとした顔で言った。


「メイちゃんだって、サッカー部とバイトと受験勉強あるんだからね」

「受験勉強は俺らもあるよ」


 大雅が遠くを見て言い、一輝と愛香は目を逸らした。



 朝食を終え、ストレッチして一輝と大雅は走りに行く。海斗と翔もやってきて、


「えー、いいな。俺らも来ます」

「朝飯持ってこよう」


 となぜか乗り気だった。

 二人のストレッチを手伝いながら、愛香はふと窓の外へ目を向けた。

 澄みきった青空の下、まぶしい朝日が校庭を照らし、夏の一日が静かに始まっていた。