彼らの夏が終わる

 翌日の昼休み。一輝が校舎一階の自販機で飲み物を買っていると、窓の向こうの中庭に藤也の姿が見えた。

 一輝が窓越しに様子をうかがうと、藤也は園芸部部長の草野(くさの)と熱心に話し込んでいた。二人は分厚いファイルを覗き込みながら、何かを相談している。

 中庭の花壇には花はほとんど咲いておらず、植え替えを終えたばかりなのか、土がきれいに整えられ、雑草すら生えていなかった。その一方で、校舎沿いのアジサイは雨上がりの光を受けるように鮮やかに咲き誇っている。一輝は、その景色を初めて意識した。


「あ、黒杉(くろすぎ)じゃん。須藤(すどう)返せよ」


 一輝に気づいた草野が笑いながら近づいてきた。その後ろを、藤也ものんびりとついてきた。


「一回戦勝ったからダメ」

「そら残念。黒杉が引退するときの花束は俺が作ってやるよ」

「いらねえ。俺じゃなくて愛香に作ってやってくれ」

「あ、彼氏面だけじゃなくて、本当に彼氏になった? よかったね」

「なってない」

「やべー、彼氏面してるだけで引退の花束贈ろうとしてんの。愛だね」

「うるせえ……」


 一輝が露骨に嫌そうな顔をすると、草野は楽しそうに笑いながら元の場所へ戻っていく。


「黒杉先輩、今日の午後の部活は視聴覚室ってメイサから連絡来てましたけど、見ました?」

「見てねえや。了解。またあとで」


 藤也は軽く頭を下げると、草野の待つ花壇のほうへ戻っていった。

***

 放課後。一輝が大雅とともに教室を出ると、二組の教室前にはメイサの姿があった。

 一、二年生の女子部員たちに囲まれ、真剣な表情で何かを話していた。

「熱くなってきたから、塩タブレット追加注文しといてね。各自の顔色しっかり確認すること。あと湿度が高いと汗かきにくいから気をつけて。大会前の練習メニューだけど……」


 一輝と大雅は、少し離れた場所からその様子を眺めていた。


「三枝さん、見た目、馬鹿なギャルなのにな」


 大雅が呟く。


「俺、前にそれ言って須藤に切れられた」


 一輝が言うと、大雅が苦笑した。


「そりゃそうだ。行こうぜ一輝。視聴覚室だろ」

「ああ、行こうか。鍵、愛香がもらってくるってさ」


 歩き出した大雅の背を追うように、一輝も踵を返した。

 ふと一瞬だけ足を止め、振り返る。

 メイサはまだ後輩たちに囲まれ、一人ひとりの話へ丁寧に耳を傾けていた。


「一輝?」

「んー、なんでもない」


 一輝は大雅の後を追った。