彼らの夏が終わる

 第二クオーターまで見終えると、一輝は少し身を引いた。


「なんか飲み物取ってくる。麦茶でいい?」

「私も行くよ。一輝、来客用のコップの場所わかんないでしょ」

「来客用はわかんねえけど、愛香のコップがどこにあるかならわかる」


 愛香が困ったような顔で一輝を見上げた。


「なんで?」

「ずっと俺のコップの隣に並べてあるだろ」

「……気づいてたの」

「アホか。それくらいわかってるっつの」


 一輝は自分の信用のなさに苦笑しながら立ち上がると、愛香の髪をぐしゃっと撫でて台所へ向かった。自分のコップと愛香のコップにそれぞれ麦茶を注ぎ、そのまま部屋へ戻る。


「持ってきた。なんか食う? つってもちょっとした菓子くらいしかないけど」

「ううん。大丈夫。ありがと」


 一輝は再び愛香を肩越しに画面をのぞき込める位置へ座り直し、麦茶を飲んでコップを床へ置いた。すると愛香はすぐにそれを拾い上げ、テーブルへ戻した。


「続き見せろ」


 一輝が愛香を抱き寄せると、愛香は身じろぎして振り返った。


「いいけどさ、どしたの、本当に」

「……愛香、彼氏いる?」

「は? いたら休みの日に幼馴染みの家に顔出してないよ」

「だよなあ。昨日、試合の後にさ……言わなきゃダメか?」

「何が?」

「今度でいい? まだ試合残ってるし」

「意味がわからない……」


 愛香は腑に落ちない顔でスマホを手に取り、試合の動画を再生し始めた。


 第四クオーターまで見終えると、愛香がもう一度振り返った。


「これでおしまい」

「愛香から見て、悪かったところは?」

「一輝はフェイントに引っかかりすぎ。あと、みんなもそうだけど、後半になるとやっぱりバテるね」

「バテるのはなあ。そもそも交代できねえから」


 一輝は顔をしかめながら、力を抜いて愛香にもたれかかった。


「重いってば。体力はもう、正直根性論になっちゃうというか……。一応メイちゃんと様子を見ながら、疲れてきたらドリンクにクエン酸とブドウ糖を足すくらいしかできないんだよね」

「エナドリは?」

「よくない。あれは借金だから」

「そうなん。……なんかそわそわしてきたから、走ってこようかな」

「ダメだよ。一輝、朝も走ってたでしょ」


 愛香がじろっと睨んだ。


「なんで知ってんだよ」

「シャンプーの匂いしたからね」

「……嗅ぐなばか」

「これだけ近かったら分かるから! じゃあ、一緒に体幹トレーニングしようか。体勢が安定すれば、無駄な体力を使わずに済むしね」

「する」


 一輝は愛香から体を離す。

 腕の中が急に寂しくなり、藤也(とうや)がメイサにべったりくっつきたがる理由が少しだけわかった。一輝は思わず愛香へ視線を向けた。


「じゃあ、四つん這いになって」

「……うん」

「声がか細いよ。はい、しゃんとして」

「俺の愛香が三枝(さえぐさ)そっくりになってきた」

「うっさいよ。はい、お腹に力入れて!」

***