彼らの夏が終わる

「どした?」


 一輝が玄関の扉を開けると、愛香が「おはよー」と笑いながら入ってきた。ノースリーブのフード付きワンピースに薄手のスキニーを合わせ、足元は涼しげなサンダルだった。


「昨日の今日で無茶なトレーニングしてないか見にきた」

「そういうことするから、母親が俺の世話係にしちまうんだろうが」

「そうかも。おばさんは?」

「仕事。親父は寝てる」

「宿題した?」

「した」

「じゃあいいか。帰る」

「待て待て」


 一輝は愛香を自分の部屋に連れて行った。


「昨日の試合、スマホで撮ってただろ。見せてくれ」

「いいよ」


 愛香は床に置かれていたクッションへ遠慮なく腰を下ろし、肩から提げていたスマホを手に取った。


「えっとねー、クオーターごとに分けてあるんだよね」

「全部ある?」

「ある。昨日のうちにメイちゃんと共有してる」


 横から覗き込んでいた一輝は少しだけためらったあと、見やすい位置を探すように、愛香を後ろから包み込むような格好で座り直した。


「ど、どしたの」

「見づらい」

「近いけど?」

「嫌?」

「……だいじょぶです」


 目の前にある愛香の首筋から耳まで真っ赤に染まっているのを見て、一輝は思わず少しだけ体重を預けた。


「重いよ」

「愛香は小せえな」

「普通だって。身長も体重も平均……より、ちょっと下だけど」

「小させえんじゃねえか。それより、試合見せろ試合」


 一輝は愛香の胴へ片腕を回して軽く引き寄せ、もう片方の手でスマホを支えた。

 愛香はスマホを操作し、昨日の試合の動画を再生する。


「あー、そうだよな、ここ、俺の動き遅かったよな」

「ちょっとね。違うとこ見てたでしょ」

「うん。こっちでフェイントかけてて引っかかった」

「視野が広いと、そういうフェイントにも引っかかっちゃうんだよねえ」

「遠くばっか見てて、手前が見えてなかったんだよな」


 バスケも、それ以外も。そう付け足そうか迷って止めた。

 一輝は、自分が藤也のような気障な台詞をさらりと言える性分ではないことくらい、わかっていた。