彼らの夏が終わる

「まなちゃん、どう?」

「脚力強化。相手は足が速い」

「それでいこう」


 動画が終わると同時に、メイサと愛香の方針は固まった。

 灰田は驚いたように振り返り、思わず顔をしかめた。


「あの二人、いつもあんな感じ?」

「いつもあんな感じ」


 一輝と大雅が同時に答えた。


「試合動画見終わったときには、だいたい決まってる」

「俺らになにやらせるかね」

「試合が終わる度にメニューが増える」


 一輝は苦笑し、大雅は早くも肩を落とした。

 翔と藤也は顔を見合わせ、小さくため息をついた。


「走る?」

「これ以上?」

「陸上部かってくらい走らされてるが?」

「俺、このあいだのスポーツテスト、超成績上がってたよ」


 ノートから顔を上げたメイサが、当然というように答えた。


「バスケって、二時間走り続けるスポーツだからね? サッカーもだけど」

「運動部ってハードだなあ」


 藤也はまるで他人事のように言って肩をすくめた。


「園芸部は園芸部でハードだろう。部員多いし、やることたくさんあるし」


 灰田の言葉に、藤也は不満そうに唇を尖らせた。


「ほんとですよ。俺、その部活の部長ですよ、部長。返してもらっていいですかね。そろそろ夏の苗の発注だってあるし、雑草増えるし害虫対策もあるのに……!」

「藤也、いなくなっちゃうの?」


 メイサが悲しい声を出した。


「いなくなりません! 負けるまでバスケします!」

「頼りにしてるね」

「手のひらで転がされてるなあ」


 そんなやり取りを眺めながら、灰田はどこか眩しそうに目を細めた。

 藤也は灰田の呟きを気にも留めず、メイサにもたれかかりながら手元のノートを覗き込んだ。


「相手は足が速いからね。ボールを取られたら、もう追いつけない」

「あとターンが速いっすね。くるくる動いてました」


 海斗は椅子に座ったまま振り返り、メイサたちへ視線を向けた。


「スリーメンとファイブメン増やそう。ひたすら走ってもらうよ」

「走ります」

「あとは海斗くんの言うとおり、一つ一つの動きを速くしたいから、全員、手首と足首の柔軟を増やすよ」


 愛香がノートをめくりながら続けた。


「今までは海斗くんと一輝を中心に多めに入れてたけど、これからは他の三人もしっかりやってもらうね。夜までに、お風呂上がりにやってほしいストレッチメニューを送るから、よろしく」

「僕が見てないあいだに、すごくしっかりしてるなあ……」

「まあ、言ったからといって、やるとは限らないんですけどね」


 メイサがじろりと大雅を睨むと、大雅は勢いよく顔を背けた。


「ほんとだよ。やらせないとやらないんだから」


 愛香がため息をつくと、メイサは視線を一輝に向けた。


黒杉(くろすぎ)、まだまなちゃんに甘えてるの?」

「な、ちが、たまにいるときに言われるだけで」

「黒杉先輩、普通風呂上がりに幼馴染みの女の子は家の中にいないんすよ……」


 海斗が呆れたように言うと、翔と大雅もそろって白い目を向けた。


「タッチか?」

「ミックスの方かも」

「うるせえな、いつもじゃねえよ」

「たまにでもいないんですよ、そんなもの! いいなあ、俺にいるのはうるせえ姉だけ……」

「俺も家にいるのは、やかましい妹たちだけだからな」


 肩を落とす海斗へ藤也がそう言うと、海斗はじろりと睨み返した。


「須藤は彼女がいるだろうが!」

「うん」


 藤也はいたずらっぽくにやりと笑った。


「かわいい彼女と毎晩通話繋げて一緒に勉強してストレッチしてる」

「ムカつく!!」


 二年生たちが騒いでいる間にも、メイサと愛香は淡々と練習メニューを組み立てていく。

 完成したメニューをバスケ部のグループトークへ送り、最後に「毎晩やれ」と一言添えた。

 その後は体育館へ移動し、メイサと愛香が送ったストレッチメニューのやり方を一つずつ確認していく。


「じゃあ、ちゃんとやってね」

「ちょっと俺、走ってくわ」


 ストレッチを終えた一輝は、その場で軽く体をほぐしてから立ち上がった。


「あ、俺も」


 それに大雅が続き、海斗と翔も顔を見合わせて後を追った。

 藤也も少しだけ迷ったあと、「三十分だけつきあう」と言い残して後を追った。


「ソワソワしすぎでしょ」


 メイサが呆れたように言うと、その様子を見送っていた愛香が苦笑した。


「公式戦は久しぶりだからね。緊張してるんだよ」

「まあ緊張するのはいいことだけど、それでオーバーワークにならなきゃいいけどね」

「無理はさせないようにするけど」


 ノートを片付け始めた愛香を、メイサはじろりと睨んだ。


「まなちゃんがそこで世話をやいちゃだめ」

「う……き、気をつける……」

***