彼らの夏が終わる

「夏の大会の抽選会があります」


 ある朝、朝練が始まったばかりの体育館へ、バスケ部顧問の灰田(はいだ)が珍しく姿を見せた。


「そんな時期だ」

「……そうだね」


 メイサと愛香(まなか)は顔を見合わせるようにして、同時に小さく頷いた。


「事前の申し込みはしておいたからね。えっと、しておいてよかったよね?」


 灰田が部員たちをぐるりと見回すと、一輝(かずき)が落ち着いた様子で頷いた。


「大丈夫です。ありがとうございます」


 灰田は嬉しそうに目を細めた。


「抽選会は来週の水曜日の夕方だよ。詳しい時間と場所はあとでバスケ部のグループトークに流しておく。参加者は顧問の僕と部長の黒杉(くろすぎ)のみ。他のみんなはそわそわしながら待っててね」

「俺らは行っちゃ駄目なんですか」


 (しょう)が首をかしげた。


「駄目だよ。顧問と部長のみって決まってる」


 翔と海斗(かいと)は顔を見合わせ、少し残念そうに肩をすくめた。

 メイサは苦笑しながら二人を振り返った。


「どこの運動部もそうだよ。サッカー部もそうだもん」

「へー」


 藤也(とうや)が納得したように頷いた。

 愛香は肩に力が入ったまま、どこか落ち着かない様子で灰田を見つめていた。

 その様子に気づいた大雅(たいが)が、「だいじょぶ?」と心配そうに声をかける。


「……だいじょばない」

「だいじょばないかー。まあ、俺もちょっと胃が痛いんだけど」

「まだなんも始まってないじゃん」


 メイサが呆れたように声を上げると、大雅は気まずそうに頬をかいた。愛香も困ったように一輝へ視線を向けた。


「一輝?」

「んー?」

「だいじょぶ?」

「わからん。なんもわからん。でも、行ってくる。部長は俺だから」


 大雅が目を丸くして一輝を見た。


「かっこいい……」


 海斗と翔も目を輝かせ、一輝へ熱い視線を向けた。


「俺の部長がかっこいい……!」

「一生ついていきます」

「いや、いらねえよ。来年はお前らのどっちかが行くんだよ」

「やだー俺らを置いてかないでくださいよ」

「どうするんですか、海斗と俺の二人で」


 メイサは呆れたようにそのやり取りを眺めていたが、灰田が男子部員たちを目を細めて見つめていることに気づいた。


「……もうちょっと、ちゃんと見たかったなあ」


 そのつぶやきを聞き、メイサは思わず顔をしかめた。


「今からでも遅くないです」

「そうだよねえ。ちょっと、教頭と戦ってくる」

「頑張ってください。必要とあらば加勢します」

「はは、心強い」


 灰田は笑いながら手をぱしぱしと叩き、部員たちの注目を集めた。


「じゃ、そういうことだから、頑張って。去年の対戦表と結果を印刷しておくからあとで取りにおいで」


 最後の言葉は愛香へ向けて告げると、灰田は体育館を後にした。

 灰田を見送ると、メイサはパシッと手を叩いた。


「はーい、じゃあ練習再開するよ。相手のチームが決まったら、それに合わせて練習内容を考え直すからね」

「りょーかい」


 大雅は頷いて大きく伸びをすると、ストレッチを再開した。

 一輝と二年生たちも返事をすると、それぞれストレッチや筋トレへ戻っていく。


「まなちゃん、去年の結果、もらったら共有よろしく」

「……わかった」


 メイサは真顔のまま、愛香をまっすぐ見つめた。


「緊張しすぎ。戦うのは、あいつらなんだよ」

「そう、だよね」


 愛香は眉を下げ、不安そうな表情でコートの男子たちを見回した。


「駄目だなあ、私」

「んなことないよ。慣れてないだけ。実際に戦うのはあいつらなんだから、それ以上に気負う必要はないし、不安そうな顔も見せちゃ駄目」

「……メイちゃんはかっこいいねえ」

「ふふ、惚れないでね」


 メイサはバチッとウィンクすると、ノートを片手に男子たちのもとへ声をかけに向かった。

***