彼らの夏が終わる

 昼休み。教室には弁当の匂いと賑やかな話し声が満ちる中、(やなぎ)と昼食をとっていた藤也のもとへ、メイサがひょいと顔を出した。


「藤也いるー?」

「こっち。どうした、珍しい」

「今日の午後練でアウトナンバーするから説明にきた。バスケ部員たちは知ってるだろうけど、藤也は知らないでしょ」

「好き」

「知ってる」


 メイサが藤也の席の前に腰を下ろし、説明を始めようとしたそのとき、近くにいた女子生徒が二人、ぱたぱたと歩み寄ってきた。


「三枝先輩、それ、私たちも聞いていいですか?」

「いいよ。あ、この子たち、サッカー部のマネージャー」

「へえ?」


 藤也は首をかしげ、少しだけ嫌そうな顔をしたが、女子二人は気にする様子もなく藤也とメイサの隣へ腰を下ろした。


「サッカーでもやるからね、アウトナンバー。オフェンスがディフェンスより多い人数でする、攻撃の練習だよ」


 サッカー部のマネージャー二人は、納得したように何度もうなずいた。


「そうそう。一年生に説明したいけどうまく言えなくて」

「三枝先輩の説明をお手本にしようと思って聞きにきた」

「ごめんね、須藤(すどう)くん。邪魔して」

「ほんとだよ」

「はいはい、説明続けるよ」


 メイサは使い込まれたバスケ部のノートを取り出した。

 真っ白なページを開くと、迷いなく長方形のコートを描いていく。


「最初は慣れてる三年生二人と青川にオフェンスをやってもらうから、藤也は茶野と一緒に『どう攻めているか』をよく見ててね。たぶん黒杉(くろすぎ)が最初に仕掛けると思う」

「なんで?」


 藤也が尋ねると、メイサはとん、とノートを指先で叩いた。


「黒杉は元々パワーフォワードだからね。がつがつ攻めてくるタイプ」

「じゃあ、黒杉先輩の動きを見てればいい?」

「それだけじゃ駄目だよ。まあ、実際にやってみればわかるけどね。『習うより慣れろ』って、五十六ちゃんも言ってたっしょ」

「山本五十六は『やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ』だろ……」


 藤也は呆れたように肩をすくめた。一方、サッカー部のマネージャー二人は「なるほどです」と素直にうなずいている。


「三枝先輩、サッカー部でアウトナンバーするんですけど、おすすめのメンバー構成あります?」

「まずは慣れてる三年生にやらせて、一年と二年にお手本見せればいいよ。それこそ『やってみせ』だね。メインのオフェンスは一ノ瀬(いちのせ)にやらせるといい」


 一ノ瀬(そう)の名前が出た途端、藤也は唇を尖らせた。メイサの従弟であり、サッカー部のエースでもある颯とは、どうにも馬が合わない。


「ディフェンスはキーパーの双葉(ふたば)くんと……」

「わかりました、それで提案してみます」

「たぶん他の三年のマネージャーに聞いても同じこと言うと思うけどね。美玲(みれい)に聞いてみて。そういうのは美玲(みれい)が得意だから」

「わかりました! ありがとうございます!」


 マネージャー二人は立ち上がると、メイサへ丁寧に頭を下げ、礼を言いながら教室をあとにした。