彼らの夏が終わる

 二本目の動画を見終えたころには、一輝と大雅はそろって机へ突っ伏していた。


「目が、痛い!」

「慣れだよ、慣れ。今日はここまでにしておこうか」

「……うん。明日も、愛香の家で続きを見ていい?」

「いいけど、私がそっちに行こうか?」


 愛香が言うと、一輝は渋い顔で首を横に振った。


「いや……愛香がうちにくると、親がうるせえから」

「……わかった」


 愛香は少し困ったような、それでいて苦笑するような表情でうなずいた。一輝はその様子を見て、ふと振り返る。


「間を取って大雅の家に行くか」

「嘘だろ、俺今全力でいないふりしてたんだけど!?」

「なんでだよ。お前も一緒に見るんだよ」


 大雅は呆れ半分、諦め半分といった表情で一輝と愛香を見比べた。


「やだー、二人がたまに出す甘酸っぱい空気に含まれたくねえんだ俺は」

「だ、出してねえから、そんなもん! 気を付けてるんだけど……」

「出てるよ、駄々漏れだよばか! で、何時にくんの? 妹に言っておかないとうるせえから」


 ぶつくさ文句を言いながらスマホを取り出す大雅を見て、愛香は思わず笑い出した。


「ごめん。ありがとう。美琴(みこと)ちゃんにお土産買っていくね」

「いらねえ……って言いたいけど、助かる」


 三人は立ち上がって視聴覚室をあとにした。昇降口を出ると、夕方の校庭からはサッカー部や野球部の威勢のいい掛け声が響き、風が土の匂いを運んできた。

 そのまま三人は校舎を出て校門に向かった。


「あ、赤江(あかえ)だ。遅くまでおつかれ」

草野(くさの)くんも部活?」


 愛香が声のした方へ振り返ると、校門へ続く通り沿いの花壇の脇に草野が立っていた。

 草野は体操着姿で、両手は土まみれだった。額や頬にも泥がつき、植え替えの最中だったことがひと目でわかる。


「うん。春の花が終わったから、入れ替え中。あ、これいる?」


 愛香は差し出された丸みのある花をそっと受け取った。薄いピンクの花びらが幾重にも重なり合い、夕日に照らされてやわらかく色づいて見える。


「きれい」

「それ、ラナンキュラスって言うんだ。……お前にもやるよ」


 草野は笑みを浮かべると、愛香の隣でむすっとしていた一輝にも同じ花を差し出した。


「花なんかいらねえよ」

「ラナンキュラスの花言葉は『とても魅力的』、ピンクだと『飾らない美しさ』。赤江に渡せばいい」

「なに、園芸部はキザじゃねえと入れないわけ?」


 顔をしかめる一輝に、草野は肩をすくめた。


「甘えっぱなし、迷惑かけっぱなしより、ずっとマシだろ」


 草野はもう一輪のラナンキュラスを一輝の手へ半ば強引に押しつけると、満足そうに笑って花壇の作業へ戻っていった。

 大雅は目を細め、草野、愛香、そして一輝へと順番に視線を巡らせた。


「愛香、その花、明日うちの妹に土産にくれ」

「え、うん。いいけど」

「俺から言えるのはそれくらいだ。あとは一輝が頑張れ」

「うっせえ……」


 一輝は露骨に嫌そうな顔をしながら、押しつけられたラナンキュラスへ視線を落とした。


「うちに花瓶とかないし、そっちでなんとかしてくれ」


 差し出された花を見て、愛香は顔を真っ赤にした。

 一輝はそっぽを向いているが耳が真っ赤になっているのが大雅と愛香にはバレバレだった。

 愛香は一輝の家に一輪挿しがあるのを知っていたけど、黙って小さく頷いた。