彼らの夏が終わる

 放課後、練習を終えてから一輝は一足早く部室を出た。

 スマホを取り出して愛香を呼び出す。


「あ、もしもし? あのさ、駅前に寄っていかねえ?」

『いいけど、なんで?』

「……アイス食べたい」


 お前と、とは言えなかった。


『土曜も食べたじゃん。まあいいけど。じゃあ駐輪場で待ってるね』


 一輝はスマホをポケットへしまうと、足早に駐輪場へ向かった。


「あれ、一輝一人?」

「……ダメだった?」

「ううん、みんな一緒かと思ってたから。どしたの、しおらしい顔して。熱ある?」

「ねえよ。行くぞ」


 一輝は自転車にまたがると、ゆっくりと走り出した。少し遅れて、後ろから愛香が自転車をこぐ音が聞こえてくる。

 初夏の夕風は蒸し暑さを残していたが、部活で流した汗が引きはじめると、一輝はなんとなく肌寒さを覚えた。

 二人は特に言葉を交わさないまま、駅へとたどり着いた。

 駅ビルの駐輪場に自転車を止めると、一輝は愛香と並んでアイス店へ入った。


「俺、パチパチするやつにしよ。愛香はチョコミント?」

「んーたまには違うのがいいな。抹茶にしよう」

「また緑色じゃねえか」

「そっちもじゃん」

「……ほんとだ」


 コーンを注文し、一輝が受け取ろうとすると、店員はスプーンを二つ添えてくれた。一輝が首をかしげながらその一本を愛香へ差し出すと、愛香は苦笑した。


「半分こすると思われたんでしょ」

「なんで?」

「……カップルっぽく見えたんじゃない?」

「ふうん。別にスプーンなくてもいいけど……食う?」


 一輝がコーンを差し出すと、「食べる」と愛香は小さく笑ってアイスにかぶりつく。

 だが、返ってきたアイスはほとんど減っていなかった。


「一輝も食べる?」

「食べる」


 一輝がアイスにかぶりつくと、一口で三分の一ほどなくなった。


「……ああ、口が小さいのか」


 一輝が納得したようにうなずくと、愛香は肩を落とし、悲しそうにアイスを見つめていた。


「た、食べすぎでしょ!? 私の抹茶アイス……」

「悪かった。だからスプーンがあんのか」

「もー、気をつけてよね」


 そう言って唇を尖らせた愛香の頬には、一輝が差し出したアイスが少しついていた。一輝は自然と手を伸ばし、その跡をぐいぐいとぬぐった。


『どうするんすか。赤江先輩が大学でモテたら』


 ふと、海斗の言葉を思い出した。

 もし、愛香の頬を他の誰かがこんなふうにぬぐっていたら。


「……ムカつくなあ」

「なにが?」


 思わず漏れた言葉に、愛香がきょとんと顔を上げた。


「なんでもねえよ。悪かったから、こっちもうちょっと食っていいよ」


 一輝は食べかけのアイスを愛香へ差し出した。愛香は一輝の手の上からコーンを握って顔を寄せる。

 今度はさっきよりも大きく口を開けていて、そのことに一輝はひどく安心した。