彼らの夏が終わる

 大学生との試合を終えた翌週の月曜日。

 一輝(かずき)はストレッチをしながら、ふと愛香(まなか)を見る。

 愛香は舞台の手前に立ち、真剣な表情でノートに何かを書き込みながら、メイサと話し合っていた。

 メイサは頷いてから顔を上げ、すぐそばでスクワットをしていた大雅(たいが)を見た。


白石(しらいし)、もうちょい腰を落として」

「太もも痛いけど」

「だからなに? これくらい」

「うへ……」


 大雅はぶつくさ言いながらメイサに従って筋トレを続けていた。

 一輝が再び愛香へ視線を戻すと、今度は海斗(かいと)の手首を取り、何かを話していた。


黒杉(くろすぎ)、身体が止まってる」


 いつの間にか隣へ来ていたメイサがしゃがみ込み、一輝の膝にそっと手を添えた。


「土曜日の試合の後、ちゃんとお風呂入った? 寝る前にストレッチした? 太もも、ちょっと固いね。痛いところある?」

「風呂は入った。ストレッチもした。ていうか愛香がうちに来てさせられた。痛くはない……いや、そっち曲がんないな」


 一輝が素直に答えると、メイサは小さくうなずいた。

 メイサの向こうでは、藤也(とうや)がじっとこちらを見ていた。その視線に気づき、一輝は笑いをこらえた。

 きっと先ほど、愛香が海斗の手首を確かめていたときの一輝も、今の藤也と同じような顔をしていたのだろう。


「まなちゃんが見てるなら大丈夫だね。うーん。腿の外側、痛い?」

「痛い」

「じゃあ今日は筋トレの内容調整しようか……それ、どういう顔?」

「いやそれ、愛香が了解してる?」


 一輝が聞くと、メイサは呆れた顔になった。


「自分の体のことは自分で了解しなさいよ。ていうか私、まなちゃんから全権委任されてるから」

「そうなん……」


 そんな話は聞いていない、と思いつつ、一輝はうなずいてメイサの手元のノートを覗き込んだ。

 ページには、小さく丸い文字が隙間なく書き込まれていた。

 愛香のノートもきっと同じようなものだ。けれど、そこに何が書かれているのか、自分は一度も気にしたことがなかった――その事実に気づき、一輝は少なからず衝撃を受けた。


「……わかった。何すればいい?」

青川(あおかわ)と一緒に手首足首のストレッチしようか。ちょうどまなちゃんが青川見てるから合流してきて」

「わかった」

「あんまりまなちゃんに甘えないんだよ」

「気をつける」

「あ、自覚あるんだね」


 くすりと笑うメイサに見送られ、一輝は愛香のもとへ向かった。