彼らの夏が終わる

 メイサと藤也(とうや)がいなくなったあとも、一輝(かずき)たちは視聴覚室で試合の動画を見返しながら、それぞれ感想を語り合っていた。


「なんつーかな。あいつ、すごいよなー」


 試合の映像が終わり、画面が暗くなると、一輝がぽつりとつぶやいた。

 愛香(まなか)が目を見開き、すぐにうつむく。


「……そうだねえ」


 大雅(たいが)が目をぎゅっと細めて一輝と愛香を睨んだ。


「いや、そうかもだけどさ。それ、三枝(さえぐさ)さんに言うなよ、蹴られるぞ」

「……わかってるよ。あー、愛香、終わったら駅前寄ってこうぜ。アイスおごるから」

「えっなんで」


 愛香が顔を上げて目を丸くした。一輝は目を逸らしてつぶやく。


「……誠意」

「やっすい誠意だな。俺、オレンジ」


 大雅は鼻で笑った。それを見た海斗(かいと)は目を輝かせながら立ち上がる。


「先輩おごってくれるんですか! 俺、バニラがいいです」


 (しょう)は「俺はソーダか……コーラか……」とつぶやいていた。


「お前らは自分で出せよ! いや、顧問に出させよう」


 一輝も立ち上がった。


「愛香、試合の結果報告しに行こう」

「う、うん。そうだね」

「お前らは待っとけよ。うるせーから」


 一輝はそう言って、愛香と並んで視聴覚室を出た。

***

 階段を降り、先に踊り場にたどり着いた一輝は愛香を見上げた。

 周囲には誰の姿もなく、 聞こえてくるのは、校庭と体育館から響く運動部の掛け声だけだった。


「あー、あのさ」

「うん?」


 見下ろす愛香に、一輝は言い淀んだ。


「……さっきの試合、愛香のおかげで勝てた」

「え、でもさっき」

「そうだけど」


 一輝は口をへの字にして、睨むように愛香を見つめた。

 愛香は困ったような表情で一輝を見つめている。

 いつも困ったように笑うのだと、ふと一輝は思った。けれど、だからといってどうすることもできなかった。


「確かに三枝はすごいけど、でも俺は、愛香のおかげだと思ってる」


 藤也がメイサにかけるような、そういう言葉を探したけど、一輝の中には見当たらない。

 一輝は目を逸らすと、再び歩き出した。

 後ろから愛香の小さな足音が聞こえた。せめて隣に並んで歩けばよかったと思う。けれど、それもいつも通り手遅れだった。