彼らの夏が終わる

「よろしくお願いします」

「そんな緊張しないでいいよ。気楽にやろうぜ」


 一輝がサークルの代表に挨拶をすると、相手はへらっと笑った。

 相手チームは終始笑顔だった。だが一輝には、その笑みが愛香とメイサを品定めするようなものにしか見えない。

 それぞれが軽く頭を下げてから、試合が始まった。

 愛香はスコアボードの隣へ立ち、メイサはコートの反対側で三脚に据えたビデオカメラを回しながら、ノートへ細かくメモを取っていた。

 三脚もカメラもサッカー部から借りてきたものだという。強い部活は備品も充実していて、一輝には少しうらやましかった。

 だが、バスケ部をここまで弱体化させたのは自分だ。そんなことを口にする資格はないと、一輝は胸の内で苦く笑った。

 一輝は前を見た。

 コートの中央では大雅が屈伸している。

 メイサから「初手でぶん殴れ」と指示を受け、緊張しながらも「任せろい」と張り切っていた。

 大雅の斜め後ろでは藤也がメイサに手を振り、その近くでは海斗が嫌そうな顔で手首を回していた。翔はコートの右側で膝に手をつき、周囲を見回している。

 一輝は息を吸って吐いた。

 審判役の大学生がボールを投げる。

 大雅が跳んだ。

 あいつ、ジャンプ高くなったな……。そんなことをぼんやり思いながら、一輝は走り出した四人の少し後ろを追った。

 大学生たちが大雅を取り囲もうとしたが、藤也と海斗が間へ割って入った。

 二人の間を抜けて大雅がゴールを決めた。

 一瞬静まり返るが、すぐに試合は再開する。


「翔!」

「はい!」


 一輝が怒鳴る。翔と海斗がボールを持つ大学生に追いつく。翔がボールに手を伸ばし、大学生がかわそうとしたところを海斗が奪って藤也に投げる。


「うりゃっ!」


 藤也が投げたボールはリングに弾かれたが、大雅が拾ってゴールを決めた。

 大学生がざわつく。

 一輝は唾を飲んだ。


「そこで日和ったら刺す」


 物騒すぎる声援が聞こえて振り向くと、メイサが笑顔で手を振っていた。

 たぶん、一輝にしか聞こえていない。

 聞こえていたら、藤也があんな笑顔でメイサに手を振っているはずがない。……たぶん。


「うっせー、見てろ、バカギャル」

「いてこましてきなさいよ、モラハラ」


 一輝は走り出した。



 その後も試合は、一輝たちが主導権を握ったまま進んだ。後半に入ると大学生側は明らかに力を抜き始めたが、一輝たちは最後まで気を緩めることなく勝ち切った。


「ありがとうございました」


 試合後、一輝が頭を下げると、相手の主将はへらっと笑った。


「いやー、若いっていいねー。俺らなかなかそこまでガチでやれねーわ」


 一輝は拳を握る。すぐ後ろにいたメイサが笑顔で顔を出した。


「胸をお借りできてありがたかったです。お世話になりました」


 返事を待たず、メイサはくるりと踵を返した。


「さー、帰ろー。藤也、午後はバイトでしょ。私も学校に顔出してから行くからね」

「あ、俺も学校行く。部長に呼ばれてるんだ」

「メイちゃん、私も行くよ。ビデオ見せて」


 一輝は一瞬きょとんとしてから、もう一度大学生たちを見上げた。


「ありがとうございました」


 笑顔でもう一度頭を下げると、仲間たちとともに控室へ向かった。

***