彼らの夏が終わる

 試合前日の金曜日。体育館では、メイサの前で二年生三人がそろってめそめそしていた。


「無理です、吐きます」

「トイレで全部吐いたら戻っておいで」

「鬼か?」

「サッカー部に聞いてなかった?」

「聞いてましたけど!!」

「三枝先輩、褒めてください」

「はいはい、偉い偉い」


 すり寄ってきた藤也の頭をひと撫でしてから、メイサはストップウォッチを片手に笛を吹いた。


「はい、もう1セット」


 三人はパスを出し合いながら走り、ゴールを決める練習を繰り返していた。立ち位置やシュートを打つ役を入れ替えながら、そのメニューを延々と続けている。


「三枝せんぱーい! 俺がゴール決めましたよー! 見てましたかー?」

「見てなかったからもう一回。青川(あおかわ)、手首使って、茶野、歩幅が狭い。周り見て」

「いや、めっちゃ見てるじゃないですか!!」

「お黙り。最初は青川から、スタートもうちょい早く」


 メイサに言われ、海斗と翔は顔を見合わせた。だが、助っ人の藤也が「はい、三枝先輩!」と機嫌よく走っていくのを見て、二人も踏ん張って後を追った。



 愛香は、床に汗を落として倒れ込んでいる一輝と大雅にタオルを差し出した。

 二人はオフェンスとディフェンスを交代しながら、何度もシューティング練習を繰り返していた。


「二人ともお疲れ様」

「ちょ、むり、きつ」


 言葉を絞り出す大雅に、愛香は微笑んでドリンクを差し出した。


「五分休んだら、もう一回ね」

「鬼だ……」

「マネージャーはそういう生き物だって師匠が言ってたから、私も心を鬼にして厳しく当たることにしたんだ。一輝も水分補給して」

「ん」


 愛香がドリンクを差し出すと、一輝は小さく頷いて受け取った。喉を鳴らして一気に飲み干し、空になったボトルを愛香へ返す。


「師匠って、あれ?」


 一輝の視線の先ではメイサが二年生に指示を出したり笛を吹いたりしていた。

 一番楽しそうなのは藤也だった。要領のいい海斗はなんとか食らいついていたが、体力の少ない翔はついに倒れ込んだ。

 愛香は笑顔で首を横に振った。


「うん。私も、優しくするだけじゃ駄目だと思って」

「……なんか、ごめん」


 謝る一輝に、愛香は首をかしげた。


「俺の太陽が、北風になっちまって」

「何言ってるの……」


 目を丸くした愛香に、一輝は耳を赤くしてそっぽを向いた。


「ごめん。キモかったわ」

「まあ、どうかとは思うけど、他の人には言わないでね」

「言うわけねえだろ」

「……俺もいるっつうの!」


 いたたまれなくなった大雅が飛び起きた。


「よし、次こそ! 勝つ!」


 大雅は一度も一輝からゴールを奪えず、一度もゴールを守り切れていなかった。

 愛香とメイサから、チームの得点源として期待されているのに。

 一輝は目を丸くしてから、ゆっくりと起き上がった。


「へえ、期待しとくわ」


 大雅は一瞬怯んだが、にやっと笑った。


「期待してくれ、これでも副部長だからさ」


 愛香は目を細めて、幼馴染二人のタオルを拾った。