彼らの夏が終わる

 バスケ部の部室は扉が開け放たれていた。夏に差しかかるこの時期は、どの部活もそうして換気をしている。閉め切ってしまうと、汗のにおいがこもって部室にいられなくなるからだ。

 部室では、バスケ部の四人がちょうど着替えを終えたところだった。


「はよー。おやつもらったからあげる」

「ちんすこう? ああ、修学旅行の下見か」


 受け取りながら大雅(たいが)が苦笑した。


「さっき三枝(さえぐさ)さんもミニサーターアンダギーくれたよ。須藤には後で別に渡すってさ」

「なんでメイサが?」

「サッカー部の顧問も下見行ってたらしいよ。ほら、一年の担任持ってるから」

「ああ、来年は行くんすね」


 藤也は着替えて四人と一緒に体育館に向かった。

 メイサと愛香(まなか)がボールとスコアボードの用意をしている。


「三枝せんぱーい、おはようございます!」

「おはよう、須藤くん」

「……これはこれで、いいな」


 穏やかに笑うメイサを見て、藤也は小さくガッツポーズをした。

 一輝(かずき)が「何言ってんだ……?」と嫌な顔をしている。

 愛香が笛を吹いた。


「じゃあ今日もよろしくお願いします。まずはストレッチね」

「お願いしまーす」


 男子たちは軽く頭を下げ、それぞれストレッチを始めた。

 一輝は寝転がって足を回した。前より大きく動くようになった気がする。いや、そんなすぐに変わるわけないか。でも筋肉痛にはなりにくくなってきたし――そんなことをあれこれ考えていた。


黒杉(くろすぎ)、動きが雑」


 メイサはかがみ込み、一輝の膝をゆっくり外側へ押した。


「ちょっと慣れてきて、動きが小さくなってるよ。ゆっくりでいいから、大きく動かして」

「いてえ」

「筋肉が喜んでるんだよ」

「なんかキモいこと言い出したな……」


 メイサが笑顔のまま離れていくと、一輝は大人しく、痛みを感じるところまで足を動かした。

 次のストレッチをしようと一輝が顔を上げると、大雅、(しょう)、藤也がプランクをしていた。その前には愛香が座り、ストップウォッチを片手に声をかけている。


「大雅、お尻に力入れて。翔くん、お腹落ちてるよ。須藤くん、あと五秒だから頑張って!」

「もうちょっとメイサっぽくお願いします」

「余裕ありそうだからあと十秒追加ね」

「メイサっぽいですけど、十秒は無理かも……」


 藤也はその場に倒れ込んだ。

 その向こうでは海斗(かいと)がメイサにしごかれていた。


「無理です、痛いです、曲がんないです!」

「無理じゃないし、痛いのは練習不足だし、曲がるんだよ」


 海斗はメイサに足首を曲げられ、悲鳴を上げていた。

 一輝は顔をしかめながら、二人のもとへ歩み寄った。


「俺の次のメニューもそれなんだけど」


 メイサは顔を上げた。


「じゃあ先輩、お手本見せてあげて」

「……善処します」


 一輝は唸りながら、涙目の海斗と同じように足を大きく踏み出し、肩を入れて前へ体重をかけようとして――そのまま転げた。


「はい、立って。足を踏み出すところからやり直し」

「うぐ」


 一輝は渋い顔でメイサに従った。

 数分前にまったく同じやり取りをした海斗も、一緒にストレッチを続ける。

***