彼らの夏が終わる

 体育館の舞台前で、青川(あおかわ)海斗(かいと)茶野(ちゃの)(しょう)は並んでボールを磨いていた。


「いやいやいや……」


 海斗が深く息を吐く。


「マジ、どうしようね、俺ら二人で」


 翔は座ったまま、手にしたボールを床へ軽くついた。

 てん、てん、とボールが跳ねる音の合間を縫うように、セミの大合唱が降り注いでいた。

 校舎からはトランペットの音色が流れ、湿り気を帯びた風が体育館をゆっくり吹き抜けていく。


「んー止めてった連中に声かけと……あとマネージャー……」

赤江(あかえ)先輩と三枝先輩が全てやってくれてたからな」

「他にいねえだろ。あんな、なんでもやってくれる人たち」


 二人は顔を見合わせ、小さくため息をついた。

 ふと翔が顔を上げると、目の前に制服姿の女子生徒が立っていた。


「……誰?」

「うわ、びっくりした。一年?」


 海斗も気づいて顔を上げる。

 そこに立っていた一年生の女子生徒は、ふわりと広がる長い茶髪を揺らし、猫のように丸い目で二人を見下ろしていた。

 吹き込んだ風が、彼女の長い髪と制服のスカートをふわりと揺らした。

 小柄な体格とは裏腹に、その笑みには揺るぎない自信があふれていた。


愛香(まなか)ちゃんと三枝先輩ほどではありませんが、なんでも出来るマネージャーが助けに来てあげました。感謝してください」


 翔がきゅっと目を細める。


「なに?」


 海斗は顔をしかめた。


「マネージャーって言ったけど、え、赤江先輩と三枝先輩と知り合い?」


「はい、愛香ちゃんは幼馴染みです」


 女子生徒はにこりと微笑んだ。


「実は少し前からマネージャーのお手伝いしてたんですよ」


 海斗はハッとして目を丸くした。


「赤江先輩たちが言ってた企業秘密って」

「そうでーす。この私、白石(しらいし)美琴(みこと)です。愚兄がご迷惑をおかけしたぶん、この最強かわいい妹である私ができる範囲でなんとかします。辞めていった一年生には全員声をかけましたから、やる気があれば二学期には戻ってきますよ」


 美琴がにかっと自信満々に笑うと、その笑顔に海斗は思わず耳を赤くし、翔はそんな二人を見比べた。

 響いていたトランペットの音色に、他の楽器も乗っていた。

 楽器に詳しくない海斗と翔には、何が奏でられているのかまでは分からない。それでも重なり合う華やかな音色は、目の前で胸を張って笑う少女に、不思議なほどよく似合っていた。

***