彼らの夏が終わる

 藤也と翔が学校に着くと、校門脇の花壇では、副部長の柳が部員たちへ苗を配っていた。


「お、二人ともお帰り。裏門に花農家さん来てるから、藤也、顔出してきて」

瑞希(みずき)さん? 行く行く」


 藤也は表情を明るくし、そのまま裏門へ駆け出した。

 残された翔は花壇の縁へ腰を下ろし、柳が部員たちへ苗を配る様子をぼんやり眺めていた。


「邪魔なんだけど」

「負けた」

「ふうん」


 柳は翔へ目も向けず、黙々と苗を運んでいた。


「どうでもよさそうじゃん」

「どうでもいいよ。どうでもいいけど、おかえり」

「泣きそう」

「泣けばいい」

「天気いいなあ」

「植え替え日和だ」


 翔が腰掛けている花壇の脇で、柳は等間隔に苗を植えるための穴を掘り始めた。


「そうなん」

「そうだよ」


 柳は翔の隣へしゃがみ込み、掘った穴へ苗を一本ずつ植えていく。植え終えると、じょうろで静かに水を注いだ。


「俺もお前と同じで副部長なんだけど」


 翔が言っても、柳は返事もせずに手を動かし続けた。


「もうちょい、お手本見せて」

「いいよ」


 ようやく顔を上げた柳の頬には土がついていて、その姿を見た翔はふっと息を漏らして、手を伸ばした。

***

 藤也が校門へ向かうと、軽トラックが停まり、その脇では草野(くさの)が苗の一覧表を真剣な表情で見つめていた。


「部長! 瑞希さん!」

「おう、藤也」


 苗を下ろし終えた藤也の伯父・瑞希が、からりとした笑顔を藤也へ向けた。


「今日、試合だったんだろ?」

「うん。でも負けた。負けたから、バスケ部おしまい」

「マジかよ、じゃあこれ、よろしく」


 顔を上げた草野は、手にしていた苗の一覧表を藤也へ押しつけるように渡した。


「草野部長、今までありがとうございました」

「部長はお前だよ。俺はもうなんもしねえ」

「こいつ、うちでバイトすることになったから、しばらくは園芸部に顔出せねえな」


 瑞希の言葉に、藤也は目を丸くした。草野はにやっと藤也に笑う。


「そうそう。俺が行きたい大学、園芸学部の入試に実技試験があるんだよ。だから瑞希さんに弟子入りする。推薦は柊に取られちゃったしな」

「へー、いいなあ。俺も弟子入りしたい」

「お前には立派な親父がいるだろ」

「……まあ、そうですけど」


 藤也は唇を尖らせながらも、瑞希の『立派な親父』という言葉を否定しなかった。その様子に、瑞希は静かに目を細めた。


「あ、でも瑞希さん。俺、もうちょい体鍛えたいから、瑞希さんがやってる筋トレ教えて」

「へいへい、後で送っておくよ。じゃあな。そろそろ帰らねえと」

「うん、ありがと」

「ありがとうございました」


 藤也は草野とともに瑞希を見送ると、苗の一覧表へ目を落とし、気持ちを切り替えるように腕まくりをした。

***