【新作】檻の外へ

当然、まともな睡眠などとれていない。制服の下にある体は無数の打撲と切り傷で悲鳴を上げており、頭の中には泥が詰まっているかのように重く、視界の端が常にチカチカと点滅していた。
そして、四日目の今日。
組長である父から下されたのは、組に借金を作って逃げ回っている半グレ集団を繁華街でシメて、事務所まで連行するという命令だった。
(……本来なら、造作もない仕事だわ)
ネオンが毒々しく輝く繁華街の裏路地。
タバコと酒の饐えた匂いが漂う中、私はターゲットである数人の半グレたちと対峙していた。彼らは派手なジャージを着崩し、金属バットやナイフをひけらかして下品な笑い声を上げている。
「なんだァ? 小鳥遊の追手ってからビビってりゃ、こんなガキが出てきやがったぞ」
「お嬢ちゃん、ヤクザごっこはお家でやりなァ!」
下劣な挑発。いつもなら、五秒で全員の顎を砕き、アスファルトに這いつくばらせているところだ。
私はゆっくりと構えをとり、一番手前にいた男の懐に踏み込もうとした。
――その瞬間、視界が大きくぐらりと揺れた。
「え……?」
足に、力が入らない。
踏み込みが数センチ甘くなった結果、私の拳は男の顔面をすり抜け、空を切った。
「おらぁっ!」
「っ……!」
鈍い衝撃。男の振り回したバットが、私の脇腹を掠めた。
普段なら絶対に躱せるはずの、素人の大振りな一撃。しかし、三日間の徹夜と五十人規模の乱闘で酷使されきった私の体は、脳からの指令を完全に拒絶していた。