音量を下げたテレビをぼんやりと眺め、無言の時間が流れていた。不思議と気まずさは感じない。
ふと隣に視線を向けると、新田が腕組みをしたまま寝息をたてていた。さすがにベッドまで運ぶことはできないと思い、ひとまずブランケットを掛けておこうと腰を上げると、ソファの揺れに釣られるように新田の体勢がゆっくりと崩れてきた。結衣は静かに受け止め、そのまま膝の上に寝かせた。
ついに限界に達したのだろう。熱の体を引きずって出社して仕事をこなし、自分を無事に送り届けるために忘年会に参加していたという彼を放っておけるわけがない。それは、まさやんに頼まれたからではないし、同情なんかでもない。
熱がかなり上がっているようで、太ももが熱を帯びている。新田が目を覚ましたタイミングで、アイスバッグを持ってきてあげよう。
「結衣」
そう呼ばれた気がしてハッとし、眠っていたことに気付いた。膝の上では新田が眠ったままだ。
「待って……」
不意に新田が掠れた声を漏らして、苦しそうに顔を歪めた。夢を見ているのだろう。
「結衣姉――」
結衣は息を呑んで、まじまじと新田を見た。
――賢吾!?
間違いない。賢吾だ。自分のことを「結衣姉」と呼ぶのは、ひとりしかいない。
今なら不自然に思うことも、当時は気にも留めていなかったのだろう。賢吾の苗字を知らないままだったことに、今さら気付いた。雰囲気もあの頃とは全く違う。
激しく脈打つ動悸で、体が震える。
突然目を覚ました賢吾が、金縛りにでもあっているように目を見開いて固まっている。
数秒後、我に返ったように慌てた様子で体を起こした。
「すみません!」
「あ、ううん、全然いいの。起こすのもあれだからそのままでいたら、私もついうとうとしてて……。ベッドに移動したほうがいいよね」
結衣は動揺を悟られないように、あえてゆったりとした口調で、目を擦りながら寝ぼけたふりをして言った。
「いえ、俺はここで大丈夫です」
賢吾がリビングの時計に目を向けた。
「もう遅いんで、早くベッドで休んでください」
結衣の目には、後輩のふりを貫こうとしている賢吾の姿が映った。その強引なまでの頑なさは、少し怖ささえ感じさせる。何か理由があるに違いない。結衣は胸の奥でざわつきを覚えながらも、今はただ様子を見るしかないと考えた。
「アイスバッグ持ってくるから待ってて」
「はい、ありがとうございます」
「お腹は減ってない?」
「大丈夫です」
賢吾は全く気付いていない。寝言だったのだから当然だけれど。知ってしまったこっちは、意識せずにはいられない。
「隣の部屋にいるから、何かあったらいつでも声かけて」
「はい、ありがとうございます」
アイスバッグを渡す手が微かに震えた。
「ゆっくり休んでね」
「はい」
賢吾はアイスバッグを額にあてて小さく吐息を漏らし、そのまま目を閉じてソファに横たわった。
「電気消すよ」
「はい、おやすみなさい」
「おやすみ」
ふと隣に視線を向けると、新田が腕組みをしたまま寝息をたてていた。さすがにベッドまで運ぶことはできないと思い、ひとまずブランケットを掛けておこうと腰を上げると、ソファの揺れに釣られるように新田の体勢がゆっくりと崩れてきた。結衣は静かに受け止め、そのまま膝の上に寝かせた。
ついに限界に達したのだろう。熱の体を引きずって出社して仕事をこなし、自分を無事に送り届けるために忘年会に参加していたという彼を放っておけるわけがない。それは、まさやんに頼まれたからではないし、同情なんかでもない。
熱がかなり上がっているようで、太ももが熱を帯びている。新田が目を覚ましたタイミングで、アイスバッグを持ってきてあげよう。
「結衣」
そう呼ばれた気がしてハッとし、眠っていたことに気付いた。膝の上では新田が眠ったままだ。
「待って……」
不意に新田が掠れた声を漏らして、苦しそうに顔を歪めた。夢を見ているのだろう。
「結衣姉――」
結衣は息を呑んで、まじまじと新田を見た。
――賢吾!?
間違いない。賢吾だ。自分のことを「結衣姉」と呼ぶのは、ひとりしかいない。
今なら不自然に思うことも、当時は気にも留めていなかったのだろう。賢吾の苗字を知らないままだったことに、今さら気付いた。雰囲気もあの頃とは全く違う。
激しく脈打つ動悸で、体が震える。
突然目を覚ました賢吾が、金縛りにでもあっているように目を見開いて固まっている。
数秒後、我に返ったように慌てた様子で体を起こした。
「すみません!」
「あ、ううん、全然いいの。起こすのもあれだからそのままでいたら、私もついうとうとしてて……。ベッドに移動したほうがいいよね」
結衣は動揺を悟られないように、あえてゆったりとした口調で、目を擦りながら寝ぼけたふりをして言った。
「いえ、俺はここで大丈夫です」
賢吾がリビングの時計に目を向けた。
「もう遅いんで、早くベッドで休んでください」
結衣の目には、後輩のふりを貫こうとしている賢吾の姿が映った。その強引なまでの頑なさは、少し怖ささえ感じさせる。何か理由があるに違いない。結衣は胸の奥でざわつきを覚えながらも、今はただ様子を見るしかないと考えた。
「アイスバッグ持ってくるから待ってて」
「はい、ありがとうございます」
「お腹は減ってない?」
「大丈夫です」
賢吾は全く気付いていない。寝言だったのだから当然だけれど。知ってしまったこっちは、意識せずにはいられない。
「隣の部屋にいるから、何かあったらいつでも声かけて」
「はい、ありがとうございます」
アイスバッグを渡す手が微かに震えた。
「ゆっくり休んでね」
「はい」
賢吾はアイスバッグを額にあてて小さく吐息を漏らし、そのまま目を閉じてソファに横たわった。
「電気消すよ」
「はい、おやすみなさい」
「おやすみ」



