各駅停車のラブソング~只今絶賛、片思い中。~

信じられないものを見てしまったとき、人間は声すら出せなくなる。
雨の日の放課後。忘れ物を取りに教室へ戻る途中、薄暗い放課後の相談室。
少しだけ開いたドアの隙間から見えたのは、私の担任の五島(ごとう)先生と――私の、母親だった。
深く重なる、二人の影。
先生の大きな手が母の背中に回され、母はうっとりと目を閉じている。
頭の中の警報機が、カンカンとけたたましく鳴り響いた。
どうして? なんでお母さんがここにいるの? なんで五島先生とキスなんてしてるの?
パニックのまま、私は足音を立てないように必死にその場を逃げ出した。
激しく打ち付ける雨の音と、自分の心臓の音がうるさい。
五島先生は、いつも私の話を真剣に聞いてくれる、優しくて大好きな先生だった。
お母さんは、お父さんが単身赴任で行き違いが多くなり、最近ずっと寂しそうだった。
だけど、これは絶対にダメだ。世界がひっくり返っても許されない。
「あ、美咲。まだ学校に残ってたのか? 傘、持ってるか?」
駅の改札前。
偶然追いついてきた五島先生が、何事もなかったかのような爽やかな笑顔で私に声をかけてくる。
その唇を見て、私は吐き気がするほどの嫌悪感と――そして、言葉にできない絶望を覚えた。
先生、私、見ちゃったよ。
お母さんのことも、先生のことも、もう前と同じ目では見られない。
そして何より最悪なのは、母に向ける先生のあの熱い視線に、私が激しい「嫉妬」を感じてしまっていることだった。
壊れていく日常のレールの上で、私の初恋は泥沼の中に沈んでいく。