各駅停車のラブソング~只今絶賛、片思い中。~

私の乗るローカル線には、不思議な噂がある。
「100年に一度、未来からの列車が同じ線路に迷い込む」
ただの都市伝説だと思っていた。
あの日、激しい落雷とともに、古い木造の駅ホームに見慣れない流線型の白い車両が滑り込んでくるまでは。
プシュー、と静かに開いたドアの向こう。
そこに立っていたのは、見たこともない奇妙な衣服を着た、同い年くらいの男の子だった。
「……ここ、は? 西暦何年ですか?」
「えっ? ……2026年、だけど……」
彼の名前は、ルイ。
今から遥か未来、西暦2126年の世界から「時間旅行のバグ」でこの時代に不時着してしまったらしい。
復旧までのわずか数時間。私はルイを連れて、私の大好きな街を案内した。
自動販売機の缶ジュースに驚き、神社の古い境内を珍しそうに眺めるルイ。
未来の技術の話を、少年のように目を輝かせて語るルイ。
「僕の世界には、こんな綺麗な夕日も、緑の匂いもない。……君のいる時代は、本当に素敵だね」
電車の窓から差し込む茜色の光の中で、ルイが優しく微笑む。
その瞬間、私の胸の奥で、カチリと何かのスイッチが入った。あぁ、私、この人のことが好きだ。
だけど、非情にもスマホの時計がタイムリミットを告げる。未来へ戻る列車の発車時刻だ。
「ありがとう。君のことは、僕の時代の歴史にも残っていない、僕だけの秘密の思い出にするよ」
ホームに立つルイの身体が、徐々に光の粒子となって透き通っていく。
「待って、ルイ……っ!」
伸ばした私の手は、冷たい夜の空気を掴むだけだった。
100年の時を隔てた、絶対に交わることのない平行線。
私の初めての恋は、遥か未来を生きる彼への、届くはずのない片思い。
それでも私は今日も、彼へと続く100年分の線路(じかん)を、各駅停車のように一歩ずつ、明日へと歩いていく。