各駅停車のラブソング~只今絶賛、片思い中。~

私、高橋奈々の学校での存在感は、各駅停車よりも薄い。
地味な眼鏡に、長めの前髪。教室の隅で息を潜めるのが私の日常だ。
だけど、スマホを開けば世界は変わる。
フォロワー数3000万人の謎の現役JKインフルエンサー『non(ノン)』。
それが私の本当の姿。SNSの中だけが、私がキラキラと輝ける唯一の居場所だった。
「なぁ、今日のnonの投稿見た? マジで神クオリティだよな……」
放課後の教室。
私のすぐ隣の席で、クラスの絶対的アイドル・一ノ瀬蓮が熱っぽくスマホを見つめている。
端正な横顔、さらさらの髪。
女子の黄色い歓声を一身に集める彼が、まさか私の熱狂的なフォロワーだなんて、神様でも想像つかないだろう。
早く帰って新作動画の編集をしなきゃ。
そう思って、私は慌ててカバンに荷物を詰め込んだ。
その拍子に、ポケットから「あれ」が滑り落ちた。
コロン、と軽い音を立てて転がったのは、動画の撮影でいつも使っている、私のお気に入りのヘアクリップ。
「あ……」
「ん? ……これ、落としたぞ」
蓮がそれを拾い上げ、私に差し出す。
その瞬間、彼の動きがピタリと止まった。
彼の視線が、私の手元、そしてカバンの隙間のスマホへと注がれる。
スマホの画面には、まだログアウトしていない『non』の管理画面がバッチリ映っていた。
蓮の目が、これ以上ないほど大きく見開かれる。
「お前……まさか、non、なのか……?」
心臓が跳ね上がった。
バレた。終わった。
明日から学校でどんな風に噂されるんだろう。パニックになりかけた私の手を、蓮がぎゅっと掴んだ。
「嘘だろ……。俺、ずっと、お前に片思いしてたんだけど」
「え……?」
「画面の中のnonにも。……本当は、たまに眼鏡の奥でめちゃくちゃ綺麗な目で笑う、隣の席の奈々にも」
夕暮れ時の教室。
電車の通過するガタゴトという音が遠くに響く中、私の「地味な日常」が、信じられないスピードで動き出そうとしていた。