センパイの傘下に入りまして。


 今、うちのクラスの女子は、真っ二つに分かれて対立している。

 いや、真っ二つは、ひいき目か。

 『健康小麦肌』派(略してケンコム派)が七。
 
 日傘(パラソル)美肌対策派(略してパラビ派)が三。


 私は、パラビ派だ。

 もともと色白で、曇り空の下でも、すぐ赤く日焼けしてヒリヒリする。
 日焼け止めと日傘は欠かせない。

 朝の通学時間。

 始業間際の学校付近の道路は、高校生が列をなして歩く。

 チリンチリン!
「ちょっと邪魔邪魔!」

 自転車通学の女子が、日傘を差して歩いている子の脇をフルスピードですり抜ける。
「ちょっとぉ、危ないでしょ! ここは歩道よ!」

 毎朝こんな、いさかいが起きている。

 ケンコム派は、屋外のスポーツ部の所属で自転車通学の子が多い。

 うちの学校は、どちらかと言えば体育会系の高校で、紫外線などモノともしない、いや、『日焼けこそ健康美』という価値観の持ち主のツワモノもけっこう揃っている。

 その急先鋒が、ソフトテニス部の副主将、クラスメイトのヒマリだ。

「最近、パラソル差してる生徒多いじゃない、場所とってるし、通学の時とか邪魔なのよねー」
 教室に入りながら、汗を拭き拭き、私たちパラビ派に聞こえよがしに愚痴る。

 そうよそうよと賛同の声。うちのクラスも体育会系女子が多く、元気で明るい性格からヒマリは男女問わず人気者だ。

「十年後に後悔するんだから。同窓会があったら、その時ザマアミロって言ってやるわブツブツ……」
 文芸部でインドア派のサクラコが、私たちの陰に隠れてつぶやく。

 放課後。

 生徒会室に顔を出す。
 (あ、私はタマキ。二年生。こう見えても生徒会で副会長をやっています。)

 既に会長のソウタ先輩と、私と同学年で副会長のレイは部屋に来ていて、何やら話し合っている。

「最近の投書、『日傘の子が通学の邪魔って』てのと『チャリ通の危険運転をなんとかして』ってのがやたら増えてるんだよね」とレイ。

「うーん、この高校の近辺は、車道が狭くてクルマもビュンビュン飛ばしてるからなあ、一概に『自転車は車道を走れ』って言いにくいんだよなあ」

 ソウタ会長は思案顔だ。
「でも会長、最近紫外線が強くなってるみたいだし、日傘を差している子のことも配慮してあげなきゃじゃないですか?」

 私はパラビ派の一人として申し述べる。
「そうだな、ゆくゆくは日傘を差す生徒が多くなるだろうから、何とか手を打たなくちゃいけないな。でも露骨に生徒会で指導すると角が立つし」

 色白で細いあごに親指を当てて考え込むソウタ会長の横顔はなかなかイケている。私にはすでにボーイフレンドがいるが、つくづく早まったと思う。確か、ヒマリもソウタ先輩に憧れていたはずだ。……まてよ、これならイケるかも?

 私は独自かつ極秘調査を行い、生徒会に計画書とリストを提出した。リストには、会長をはじめ、色白でまだ彼女のいないイケメン男子をリストアップしてある。

 ソフトテニスの部活が終わり、生徒玄関を出たところ、ヒマリは生徒会長のソウタと偶然でくわす。

「やあ、部活お疲れさん」
「あ! 会長……生徒会、お疲れ様です」

 少しモジモジしているヒマリ。

「ヒマリ君は、自転車通学だっけ?」
「は、はい、そうです。よくご存じで」

「そりゃ生徒会長だからね……自転車置き場までこれに入ってかない?」
 ソウタ会長は日傘を広げ、ヒマリに差し出す。

「ソウタ先輩……日傘使ってるんですか⁉」
「うん、僕はこの通り色白で肌が弱いからね。あ、ヒマリ君は小麦色の肌もかっこいいけど、白い肌もステキだと思うんだよね」

 私は、物陰に隠れながら二人の後を追っていたが、ソウタ先輩の歯の浮くセリフに思わず爆笑してしまいそうになった。しかし、ヒマリにはそれがなかなか効いているようだ。

 今、学内では、このように色白イケメンによる日傘大作戦が密かに進行しつつある。

 一週間ほどして、その効果が現れ始めた。

 登校時間、学校へ続く一本道に、カラフルな日傘のつぼみが一斉に開いていく。まるで上空から見たら、アスファルトの上に突然咲いた、ポップな花畑のグラデーションみたいに壮観だろう。

 しかし、道路はそんなに混雑していない。以前は、始業間際に登校する生徒が殺到していたが、最近は登校時間がバラけている。

 なぜかというと。

 色白イケメンから誘いかけ、ケンコム派の子がそれに応じてカップルが急増。早い時間に待ち合わせし、余裕を持ってゆっくりと『パラソル相合傘』で登校しているからだ。

「タマキ君、おはよう」
「あ、ソウタ会長、おはようございます」

 日傘を差した会長が、私を追い越していく。

「お、おはよう、タマキ」

 会長の隣で、あの『ツワモノ』だったはずのヒマリが、これ以上ないくらい小さくなってうつむいている。一本の日傘が切り取った小さな世界の中で、彼女の耳たぶが、夕焼けみたいに赤くなっていた。

――彼女はソウタ会長の『傘下』に入ったのだ。これは『ケンコム派』(健康小麦肌派)にとってはダメージが大きかった。

 半袖のブラウスから出ている腕を見ると、心なしか、色が白くなったような気がする。

 それもそのはずだ。

 この間、彼女から『……ねえタマキ、バリ効く日焼け止めクリーム教えてくれる?』と相談があったのだ。

おしまい。