喪失騎士エルディーテの冥界追想録 〜 孤独な騎士の過去を辿る、運命を覆す相互救済ロマンス~

――――リシア帝国は、様々な民族の集まりで出来ている。
帝国唯一の砂漠地帯であるゼノアはリシア最南端の国境付近の地域を指す。

オアシスを中心に栄える都市部から離れると一面の砂地。
吹き荒れる熱風に砂の粒が混じり、風に煽られた肌に触れるとざらざらしていた。

エルディーテ自身は実際にここへ来たことはないが、目の前にある建物から出てくる傭兵らの姿で、ここがゼノアであることはすぐに分かった。

帯刀している若い男女が話し込んでいたからだ。

「――だからリシアは停戦したんだよ」

「はぁ、……だがこっちは大国リシア様だぜ。内乱でもなけりゃ傾くことないだろうに」

「かもしれないけど……あっちはオートマチックだったかな?見たでしょ。とにかく技術がすごいんだよ」

「おーとまちっくぅ?」

女の方はエルディーテよりも小柄で赤い髪をして華奢な身体つきだが、所作が美しく体幹の良さを感じさせる。
もう一人は、骨格の良さが一目でわかる無骨な男で、大剣を背負っていた。

オートマチックという言葉にエルディーテは過去に起きた小さな戦を思い出す。

たしかリシアは機械技術による推進力が高い隣国と一度戦ったことがある。
相手はゼノアの砂漠地帯を挟む隣国だった。エルディーテの時代も休戦協定は続いているが、今見ているのは、その当時なのだろうか。

エルディーテは近くにオルディスがいないか無意識に探す。

「錬金術に似たやつでどっかの貴族の女が広めてるんだって。今回は金払いがいいからリシアについたけど、実際に来てみて次はないなって思った。ほんと停戦になってよかったよ」

「あの程度でか?」

「ばっか!オルディスが弱点見抜いたから作戦が成功したんでしょう。あれは力づくでどうこう出来るもんじゃないよ!」

エルディーテははっとして、二人の後ろから続いて出てきた人物に目を止めた。
フードを被って顔は見えないが、男らしい身体つきで少し猫背気味の姿に既視感を覚える。

「そ、そうなのか……」

「そうだよ!本当あんたって脳筋だよね。まだ武器の精度が低かったから命拾いしたけど、あんなの剣じゃ太刀打ちできないから……きっとそういう時代が来るんだよ」

「じゃあこれからどうすんだよ?」
「シルフィードに行こう。あそこはこれから急速に発展する」

「シルフィードか……なるほど。よしオルディス!お前も一緒に行くぞ」

男女らが振り返り、フードの男をオルディスと呼び声をかけた。
やはり彼が……――――エルディーテは顔を歪めた。

フードを被ったオルディスは、騎士団塔で見た時よりもやつれた雰囲気を醸していたからだ。

「俺は止めとく……」

オルディスの声は前より低く、暗い。
そして何より以前は”私”と言っていたのに一人称が変わっていた。

「かっ!なんでだよ、勿体ねぇ。こいつの情報は貴重だぜ?俺は世話になりっぱなしだってのに」

「あんたは頼りすぎだけどね」

「いーだろぉ、強い奴と組めてお前も俺も得してるだろ」

「まぁそれは……それよりオルディス、本当に一緒に来ないの?君は常識的だし、腕も立つし、仲間として居てくれたら嬉しいけど」

二人はオルディスを高く買っているようだ。
女の方が様子を窺うように問うと、オルディスは一度頷いた。

「……悪い。誘ってくれた事は感謝するが、国から出るつもりはない……」

騎士団での騒ぎのあと、オルディスがどうなったのか実際に見ていないが、この様子をみてエルディーテはスナイプ家からはおそらく勘当されているだろうと予想した。

既に一度オルディスは釘をさされていたうえに、追放に加えあの騒ぎだ。

どんな事情があるにせよ、オルディスの父親は許さなかっただろう。
でなければこんな国境地帯の戦いの最前線で傭兵などやっているわけがない。

「――この国で成り上がらないと意味がないからな。ひとまずゼノアの領主に私兵として雇ってもらえるようになった。俺はこの地で粘るよ」

オルディスは付け足すように二人に言った。
その言葉を受けて彼らは顔を見合わせたあと頷き、女の方は眉尻を下げた。

「そっか。わかった……でもオルディス、本当に困ったら私らの所においでよ」

「そーだぜ。もう身内みてぇなもんだしな」

男も同調しオルディスの元へ歩み寄ると肩を叩く。

「……ありがとう」

オルディスの声音が少しだけ柔らかく響き、エルディーテは切なさに胸が締め付けられる思いに駆られた。

なぜなら一つ気付いたからだ。
エルディーテはオルディスの人生を追走するように見ている。
そして、もしかすると目にしているものは、人生の岐路なのかもしれない。

目にするたびに、いつも悪い方向へ向かって進んでいることを感じるのはきっと気のせいではない。

気のよさそうな彼らと共に行かない選択をしたオルディスがこれからどうなるのか、そう思うと切なくなったのだ。