「――ようやくお前の顔を見なくて済む。ユーク様の弟子は俺だけでいい」
レニーが告げた言葉にオルディスは何かに気付いたように表情を凍り付かせていた。
ユークとは父の名だ。
ユーク・グラウス。若くして宰相の地位を賜る父は、グラウス家の血を濃く受け継いでいる。
努力に勤しみ才覚の抜きんでている者を好んで目をかけ、日陰の者も泥臭い根性を宿していれば自ら引き上げる。そういう人間だ。
父の口からレニー・レイヴンの名を聞いたことは無かったが、レニーの言葉はまるで父と師弟関係にあったと主張しているようだった。
「お前まさか、そんなことでっ……」
オルディスは腕に抱えていた荷物を乱雑に投げ捨てた。
壁にぶつかり中身が散乱するなか、レニーの背を追い、その肩を掴む。
これは明らかに理性の糸が切れた瞬間だった。
「そんなことの為に俺を追放したのかっ!?」
鬼気迫る表情で怒声を浴びせレニーに殴りかかる。
「グラウス宰相はお前を認めてるっ……!俺を引き合いに出す必要などなかっただろ!!」
そこには馬乗りになって一方的にオルディスがレニーを殴りつけている姿があった。
『オルディス、止めろっ!』
エルディーテの心中は咄嗟に声に出ていたが当然彼らに聞こえるはずがない。
「俺は関係ないだろ!!追放も、俺の元婚約者を弄び捨てたのも、そのためかっ!?」
声を震わせ怒りに染まっている。
オルディスの端正な顔は悲壮と憤怒に歪んでいた。
しかしレニーは何も言わない。
それが彼を余計に駆り立たせたのか更にもう一発、レニーの顔を殴りつけた。
「お前はどうかしてるっ!」
静かな宿舎な廊下にはいつの間にか人だかりとなっており、一方的な暴力を奮うオルディスに対し軽蔑と畏怖を孕む視線が突き刺さる。
それに気付いているのはレニーだけだ。
挑発も沈黙もレニーの思惑あっての行動だと、オルディスは気付いているのだろうか。
いや、気付いていたとしてもきっと止められないのだろう。
我慢ならないと自虐的に自分を語っていたオルディスの寂しげな顔が過り、エルディーテは固唾をのんで二人を見守った。そうするしかなかったからだ。
レニーは衆人観衆の中、血の混じった唾をオルディスに向かって吐き出すとほくそ笑んだ。
そして小声で告げた。
「……っ…………下級貴族はユーク様を汚す」
それは、レニーのユークに対する強い感情を垣間見るような言葉だった。
執着していたのはオルディスでなく、父に対してだったのだろうか。そのためにオルディスを蹴落とした?
父はエルディーテに対して剣を取れと言った。
帝国騎士団がどのようなところか知りながらそこを目指すよう告げたが、けしてレニーと親しい間柄というわけではなかったように思う。
王女サフィアの護衛に団長にも推薦してもらえたと報告した際も、どこか冷めた反応だった。
レニーの一方的なものなのだろうか。
「何をやってる!!離れろっ」
一般騎士らを掻き分けて現れた中隊長の男がオルディスを強引に引き剥がしたが、オルディスは肩で息をつきながら冷めやらぬ激情をレニーに向け叫んだ。
「っ……俺を追放したところで意味などないっ!!だがお前には理解できないだろうなっ……」
その姿を、先に戻っていたはずのユークが群衆の奥で見つめていた。
しかし身を翻し直ぐに去っていってしまう。
エルディーテははっとして、人を掻き分け追いかけた。
人ごみを抜けて見えたユークの手には手紙が握られており、それはグラウス家の紋章で封印されている。
それが見えるほどにようやく追いついたが、しかし突如なぜかその背が遠くなってゆく。
一気に引き離され、身体が強い力でどこかに振り投げられた。
実際は違うのだろうが、そんな錯覚に思わず瞼を閉じてしまうと、次に見えたのは日差しが照り付ける砂漠の地ゼノアだった。
レニーが告げた言葉にオルディスは何かに気付いたように表情を凍り付かせていた。
ユークとは父の名だ。
ユーク・グラウス。若くして宰相の地位を賜る父は、グラウス家の血を濃く受け継いでいる。
努力に勤しみ才覚の抜きんでている者を好んで目をかけ、日陰の者も泥臭い根性を宿していれば自ら引き上げる。そういう人間だ。
父の口からレニー・レイヴンの名を聞いたことは無かったが、レニーの言葉はまるで父と師弟関係にあったと主張しているようだった。
「お前まさか、そんなことでっ……」
オルディスは腕に抱えていた荷物を乱雑に投げ捨てた。
壁にぶつかり中身が散乱するなか、レニーの背を追い、その肩を掴む。
これは明らかに理性の糸が切れた瞬間だった。
「そんなことの為に俺を追放したのかっ!?」
鬼気迫る表情で怒声を浴びせレニーに殴りかかる。
「グラウス宰相はお前を認めてるっ……!俺を引き合いに出す必要などなかっただろ!!」
そこには馬乗りになって一方的にオルディスがレニーを殴りつけている姿があった。
『オルディス、止めろっ!』
エルディーテの心中は咄嗟に声に出ていたが当然彼らに聞こえるはずがない。
「俺は関係ないだろ!!追放も、俺の元婚約者を弄び捨てたのも、そのためかっ!?」
声を震わせ怒りに染まっている。
オルディスの端正な顔は悲壮と憤怒に歪んでいた。
しかしレニーは何も言わない。
それが彼を余計に駆り立たせたのか更にもう一発、レニーの顔を殴りつけた。
「お前はどうかしてるっ!」
静かな宿舎な廊下にはいつの間にか人だかりとなっており、一方的な暴力を奮うオルディスに対し軽蔑と畏怖を孕む視線が突き刺さる。
それに気付いているのはレニーだけだ。
挑発も沈黙もレニーの思惑あっての行動だと、オルディスは気付いているのだろうか。
いや、気付いていたとしてもきっと止められないのだろう。
我慢ならないと自虐的に自分を語っていたオルディスの寂しげな顔が過り、エルディーテは固唾をのんで二人を見守った。そうするしかなかったからだ。
レニーは衆人観衆の中、血の混じった唾をオルディスに向かって吐き出すとほくそ笑んだ。
そして小声で告げた。
「……っ…………下級貴族はユーク様を汚す」
それは、レニーのユークに対する強い感情を垣間見るような言葉だった。
執着していたのはオルディスでなく、父に対してだったのだろうか。そのためにオルディスを蹴落とした?
父はエルディーテに対して剣を取れと言った。
帝国騎士団がどのようなところか知りながらそこを目指すよう告げたが、けしてレニーと親しい間柄というわけではなかったように思う。
王女サフィアの護衛に団長にも推薦してもらえたと報告した際も、どこか冷めた反応だった。
レニーの一方的なものなのだろうか。
「何をやってる!!離れろっ」
一般騎士らを掻き分けて現れた中隊長の男がオルディスを強引に引き剥がしたが、オルディスは肩で息をつきながら冷めやらぬ激情をレニーに向け叫んだ。
「っ……俺を追放したところで意味などないっ!!だがお前には理解できないだろうなっ……」
その姿を、先に戻っていたはずのユークが群衆の奥で見つめていた。
しかし身を翻し直ぐに去っていってしまう。
エルディーテははっとして、人を掻き分け追いかけた。
人ごみを抜けて見えたユークの手には手紙が握られており、それはグラウス家の紋章で封印されている。
それが見えるほどにようやく追いついたが、しかし突如なぜかその背が遠くなってゆく。
一気に引き離され、身体が強い力でどこかに振り投げられた。
実際は違うのだろうが、そんな錯覚に思わず瞼を閉じてしまうと、次に見えたのは日差しが照り付ける砂漠の地ゼノアだった。



