喪失騎士エルディーテの冥界追想録 〜 孤独な騎士の過去を辿る、運命を覆す相互救済ロマンス~

――なんだこいつは。男爵家?貴族の紛い物じゃないか。どうしてユーク様と一緒に?

次々に疑問が溢れ、そして次に言われた発言に衝撃を受けた。

「仲良くしてやってくれ。二人は年が近いし、オルディスはレニーと同じぐらい賢いからね。きっと話が合うよ」

話し相手などユークだけで十分だというのに、自分の扱いが面倒になったのだろうか。
オルディスはユークに似て爽やかで気のいい奴だと直ぐに分かったが、それが返って鼻についた。

嫌いでしかたがなかった。
なんせオルディスの周りには人が集まる。男爵家のくせに。

父はグラウス家に認められれば名実ともに優秀だと言った。
ではオルディスもユークに認められた存在として社交界で有名になるのか?

このころ、父親からはユークと懇意にしておけとしつこく言われており、レニーの気持ちとは関係なく命令してくることにうんざりしていたが、オルディスという脅威が現れ、尖っていた心は砂のように崩れていく。

――ユークがオルディスを可愛がれば、また冷遇される日がくるのか?

そんな不安が過ったからだ。
やっと自分を知ってくれた人が現れ、周囲も認めてくれるようになったというのにだ。


「レニー。オルディスと不仲のようだが、あまりあいつを気にするな。君は君の得意なことをしなさい」

ユークは自分と同じく武官よりも文官として大臣を目指せと助言してくれたが、レニーはオルディスが騎士を目指すというのを知って一年待ち、自分も騎士団に入団することにした。

どうせ違う分野に居たとしても気にくわないのだから、同じ土俵で徹底的に叩きのめしてやる。
その意気込みがあったのだ。

しかし、久しぶりに会ったオルディスは以前にも増して佇まいがユークに似ていた。
余計に腹は立った。


そして取り巻きにしてやると言えば興味なさげに断ってくる。

入団試験に使う剣に細工を施したが、あまり効果はなかった。
レニーが思ったほどオルディスは恥をかかなかったのだ。
どうやら暫くみないうちに随分と剣の腕を上げていたようだ。

入団後、オルディスは剣筋が良いと褒められたり、戦術の教義では上官から一目おかれる存在だった。
レニー自身もそこそこ自信はあったが、まさに目の上のたんこぶだ。
常に彼は正しく、本人が呼ばずとも人に囲まれる気質を持ち、年上にかわいがられる。

そうやってユークも誑かしたのだろう。
レニーにとって唯一の師匠であり崇拝すべき存在であったのに。

――横取りされた。

だから地道に嫌がらせを続け、隊内で孤立するよう仕向け、そして婚約者を取り上げた。
婚約者の女は始めはオルディスを信じようとしていたが、それなりに時間をかけて垂らし込めば幼馴染などといった関係は容易く壊すことが出来た。

それでもなお、オルディスは未だに毅然と振る舞う。

レニーはそれが気にくわなかった。
自分がこれだけ必死だというのに、オルディスは抜いては生える雑草の如くしぶとく青々と繁っている。

そこで秘密裏に賊を雇い、オルディスの護衛任務を邪魔することにしたのだ。
しかしオルディスは賊を華麗に捕縛し英雄として祭り上げられた。
だが、そうなった場合の次の手は予め考えてあった。
地位と価格、そして金を利用すれば大抵の事は思い通りになる。

そうしてレニーはオルディスを遂に仕留め挙げることが出来たのだ。

――これでもう邪魔者はいない。

そう考えていたが……数か月後、ユークに呼び出され告げられる。

「君はもう私の弟子じゃない。もう師匠などと呼ばないでくれ」

突き放すように冷たい声で言われたのだ。

ユークはオルディス追放の一件を独自に調べ上げたといって、レニーが仕掛けたものだと証明する材料を揃えていた。

「レニー……オルディスに何をしたか、そして私にどんな決断をさせたか……その重さを君は分かっているのか?これを公表するつもりはないが、君は自分の立場を軽くみすぎだ……今後はよく考えなさい」

最後に言われたこの言葉以降、ユークはもう”レニー”と気安く呼ぶことはなかった。
――あぁ、オルディスさえ居なければ……。


嫌な顔を思い出し、レニーは瞼を閉じる。
走馬灯のようにこれまでの日々が駆け巡り、そして遠くなった存在に後悔する。

しかしふと、思いついたのだ。

ユークは言った。”娘が望むならまだしも”と。
エルディーテが望むなら婚姻出来るのではないかと。

むしろエルディーテに取り持ってもらえばいい。
幸い隊内での扱いは悪いものではない。
今までそういう対象とみられていなかっただろうが、もしも彼女の後を追い、説得し連れ戻す過程で、自分のものに出来れば……。

ユークもきっと認めるのではないだろうか。
それに気づくと光を見出したかの如く心が晴れ渡ってゆく。

なぜ今までそうしなかったのだろうか。

「冥界、といったか……すぐに調べなければな」

レニーは独り言ち、そして汚れてしまった調書を隅に置くと立ち上がったのだった。