喪失騎士エルディーテの冥界追想録 〜 孤独な騎士の過去を辿る、運命を覆す相互救済ロマンス~

「二月ほど前、部屋に押し込みレニー殿を殴りつけただろう。上層部に報告はしていないそうだが、対応によっては考えると言われている」

瞬間、オルディスは鋭い視線をレニーに向けた。

「騎士団内で起きたことを、わざわざ実家に言いつけたということですか?私を罰したいなら上層部に報告すればいいものを」

「酷いな。これは騒ぎを大きくしないための配慮だというのに」

レニーは呆れた口調で言って、それからオルディスの家族とハンナをみた。

「先日お話した通りです。やはり未だにオルディス殿は妊娠した近習騎士の父親を私だと嘯いて折れる気がないらしい。実際のところ父親は彼自身だと思うのですが、それを指摘すると激高するのですよ」

近習騎士という言葉にエルディーテは前回見たやり取りを思い出していた。

あの時、オルディスは宿舎の廊下で座り込む女性を庇っていた。

「いい加減なことを言うな……」

「この通りです。そもそも、ハンナ嬢という存在がありながら、いつも彼女の傍についていたのは君だと言うのに」

これまでエルディーテが見たオルディスは正義感の強い人間だった。

その彼のことだ、きっとあの後も気にかけていたのだろうと想像がついたが、しかし令嬢のハンナはレニーの言葉にショック受けている様子だった。

「……辛そうな仲間を放っておけなかっただけだ。いいかレイヴン、君がしたことを私は知っている……彼女には止められていたがもう我慢ならない!帰って報告する」

オルディスは声を荒げると憤る脚でレニーの横を過ぎる。そして部屋を出ようとしたが父親の声がそれを止めた。

「オルディス!!」

厳しい口調で呼び止め、オルディスが忌々しげに振り返る。

刹那の沈黙に緊張が張り詰めた。

その空気に響いた吐息は誰のものだったのだろう。

オルディスの父親は、眉間に皺を刻んだのち告げる。

「これ以上、問題を起こすなら勘当も視野に入れている。そうなれば騎士ではいられんぞ」


その言葉に反応し、オルディスは胡乱な瞳を父親に向けた。

この瞬間、明らかにこの親子の間に亀裂が出来たのをエルディーテは感じていた。

傍ではレイヴンが二人のやり取りを満足そうに眺めていた。
しかし婚約破棄も身内からの警告もまだ序章に過ぎない。

オルディス・スナイプという正義感溢れる騎士は、レニー・レイヴンの異常な執着によって、転がり落ちるように人生が破滅に向かっていく。
それをエルディーテもオルディス自身もまだ知らない。