その手を、もう離さない


「ねぇ」

不意に翡翠が口を開く。

その声で思考が途切れた。

「ん」

短く返事をする。

すると翡翠は少しだけ笑った。

「今日、嬉しかった」

ぽつりと落ちた言葉。

あまりにも自然だったから、一瞬意味が分からなかった。

嬉しかった。

何が。

そう聞こうとした時には、翡翠が続けていた。

「レポート」

美都は足を止めそうになる。

レポート。

たったそれだけのことだ。

別に大した話ではない。

手伝ってもらっただけ。

頼っただけ。

それだけなのに。

「そんなにか」

思わず漏れた声に、翡翠は小さく頷く。

その横顔は少し照れていた。

「うん」

たった一文字。

けれどその返事には、想像以上の重みがあった。