その手を、もう離さない


「……じゃあ、もう少し頼る」

そう言った瞬間の翡翠の顔が、翌日になっても頭から離れなかった。

あんな顔をするんだな、と美都は思う。

嬉しそうで。

安心したようで。

少し泣きそうなくらい優しくて。

今までだって翡翠はよく笑っていた。

けれど昨日の笑顔は少し違った気がする。

自分の言葉一つで、あんな顔をする。

そう思うと胸の奥が妙に落ち着かなかった。

恋人になってから知ることばかりだ。

翡翠の知らなかった表情。

知らなかった感情。

そして自分自身のことも。

昔は誰かに頼るなんて考えたこともなかったのに、最近は少し違う。

困った時に真っ先に浮かぶ顔がある。

嬉しいことがあった時、話したいと思う相手がいる。

その変化がまだ少しだけ照れくさかった。