その手を、もう離さない


静かな風が吹き抜ける。

翡翠の髪が揺れる。

その横顔を見ながら、美都はふと思う。

恋人の特権なんて、特別なことじゃないのかもしれない。

手を繋ぐことでも。

一緒に帰ることでも。

甘い言葉を言うことでもない。

こうして相手の気持ちを知れること。

自分の知らなかった感情を教えてもらえること。

それが一番大きな変化なのかもしれなかった。

そして気付く。

さっきまで悩んでいたことを。

名前を呼びたかったことを。

美都は小さく息を吸う。

隣では翡翠が不思議そうにこちらを見ていた。

その続きの言葉が、思ったより自然に口から零れる。

「……翡翠」

思ったよりずっと優しく胸に響いた。